当社が開発している「FIELD system」は、製造現場での使用を目的としたIoT(Internet of Things)のためのプラットフォームだ。CNC(コンピュータ数値制御)装置やロボットだけでなく、周辺デバイスやセンサーを接続して製造・生産を最適化するためのアナリティクスを提供することが大きな狙いである。

「Edge Heavy」の思想で新しいシステム形態を採用

 名称の「FIELD」は「FANUC Intelligent Edge Link & Drive」を意味し、製造現場で「つながる、見える、考える、動かす」を実現したい思いを込めた。

 IoTのシステムは、全てのデータをクラウド上に集約する形態が一般的だ。しかし、生産を支えるシステムにおいては、それでは不都合な場合が多い。リアルタイムでのデータ処理が必要なため、大量のデータをクラウドへ送信する時間がかかり、処理が追いつかなくなる恐れがあるのだ。

 そこでFIELD systemでは、「Fog」という形態を採用した。生産現場のデバイスに近い位置にデータ処理装置を広く分散させるシステム形態だ。クラウド(雲)よりデバイスに近く、フォグ(霧)のように広く分散していることから名付けた。リアルタイム性の高い処理はフォグで、そうでない処理はクラウドで実行するという仕組みだ。

 そして、データ処理の多くを生産現場のシステム、すなわちエッジ側で実行しており、この考え方を「Edge Heavy」と呼んでいる。

 FIELD systemの役割は、ロボットや工作機械などインテリジェントな機器をつないで制御すること。機器や生産ラインに設置したセンサーなどから収集されたデータの一部はクラウド上に集約される。製造業向けのIoTプラットフォームはさまざまなベンダーが手がけているが、機器のドライブまでを制御できるのがFIELD systemの特長だ。

ロボットが自ら学ぶAI技術を活用

 接続できる機器や、エッジで動作させるアプリケーションは当社の製品だけではない。公開された仕様に基づき、他社の機器やアプリケーションも対応可能だ。昨年秋に行われた工作機械の見本市「JIMTOF」では、80社250台の機械をつないだデモを実施した。

 そして、お客様やパートナー企業とエコシステムを形成し、製造業全体のレベルアップにつなげていきたいと考えている。

 また、FIELD systemではAI(人工知能)も活用する。エッジ側にAIを搭載することを目指している。

 現在、箱の中にばらばらに置かれた部品を取り出していく「ばら積みロボット」を実証中だ。AI技術の一つである機械学習を使い、どのように置かれた部品をどう取り出すかをロボットに学習させている。

 最初はやみくもに動作して、取り出しに成功したら、そのパターンを学習する仕組みである。徐々に成功率が高くなり、最終的にはほぼ失敗はなくなる。

 ロボットにルールを設定するのに、従来は熟練の作業員で2日間を要していた。これが機械学習を活用すると、約8時間に短縮できた。

 機械学習のよいところは、1台が習得した学習結果を瞬時にほかのロボットと共有できることだ。1台のロボットだと8時間かかる作業を4台のロボットで学習すると4分の1の2時間で済む。

 実機を使わずに仮想空間上のシミュレーションで機械学習を行うことも可能なので、実機の損傷のリスクなしにさまざまなことを試すことができる。

 機械学習を使った故障予知にも取り組んでいる。機器から収集したデータの波形から故障を予知する。機器が正常に稼働している時の波形と異常が起こった際の波形を学習し、故障が発生する前に異常を検知できるようになる。

 FIELD systemのリリースは、まずは日本で今年秋からを予定している。現在、リリースに向けた開発やインフラの準備を進めているところだ。

グランプリはファナックの「スマート工場IoT」

 日経コンピュータ主催による優れたIT活用事例を表彰する「IT Japan Award」。2017年のグランプリには、ファナックが輝いた。同社が構築した「FIELD system」は、自社製品だけでなく競合企業の工作機械やロボットを連携させることで、製造現場のIoT活用を推進。2016年8月の段階で200社のパートナーを集め、先進のエコシステム(生態系)構築事例でもある。

 準グランプリは、工具などのネット通販サイトを運営するMonotaROと宅配ピザ店を展開するストロベリーコーンズ。MonotaROはマイクロサービスなど最新の構築手法の導入が、ストロベリーコーンズはIoTによる冷蔵庫の温度管理が評価された。特別賞は自動車部品メーカーの旭鉄工と、福岡県糸島市が受賞した。

 11回目となる今回は、日経コンピュータ2016年5月12日号から2017年4月27日号に掲載された事例を対象に、有識者を交えた審査委員会で審査を実施。IoTやAIなど最新技術を生かした事例が占めた。