『これも,日本語:みんなで国語辞典!』を読めば読むほど,日本人の言葉感覚の鋭さ,創造性の豊かさには感心するばかりです。江戸時代から同様な隠語化や言葉遊びはあったようですが,その勢いは平成になっても,21世紀に入っても衰えていないようですね。

 造語の中にはそのまま英訳して使えるものもありますし,英語の表現が日本に帰化したた思われるものも見かけます。

英語圏では通じない“Myブーム”

 今回は,英語由来の日本の造語を考えます。まずは英語圏では通じない表現から拾ってみましょう。

・Myブーム [個人が一時的にもつ興味や趣味]
 「世間の流行とある程度ずらすことによって,アイデンティティーを満足させる効果がある。大抵は一過性のもの」という定義が掲載されていました。英語のboom(ブーム)は大勢が同じことをして流行するという意味なので,Myと結びつけることには無理があります。

 Myブームを英訳する場合は,“to be hooked on”,“to be addicted to”というのはいかがでしょう?「~にハマッている」「~に凝っている」という意味です。

ヨガが私のMyブームなの → I am hooked on yoga now.

 そもそも“My XXX”という表現は,IT業界では数年前に登場した「My SAP」が流行らせたように思いますが,SNS(ソーシャル・ネットワーク)の「My space」は今や大人気で,SNSそのものの代名詞にもなっています。

・NG [No good]
 It is no good (こんなのダメだよ。使い物にならないよ)という用法はありますが,「NG」のように頭文字(イニシャル)で省略することはありません。試験結果で不合格の代わりにNGと書かれている試験報告書をよく見かけますが,英語的には「Fail」と書きます。

・GJ [Good Job]
 NG同様,イニシャルでは使わない例です。

Good job! (すご~い!ご苦労様!)
You did a good job. (よくやったね)

 もう一つ,文法的には正しい表現ですが,アメリカよりも日本で普及した英略語をご紹介しましょう。

・LOHAS (life style of health and sustainability)
 自分の健康(health)と,地球環境の持続可能性(sustainability)を重視するライフスタイルのことで,日本では「ロハス」という呼び方が定着してきましたが,アメリカではあまり聞いたことがありません。まだ市民権を得ていないということでしょうか。当面,英語圏ではフルスペルで使うか,“LOHAS”とカギ括弧を付けて使うとよいでしょう。

“なるはや”の英訳は,やっぱり略語の“ASAP”

 次は,造語ながら,そのまま英語化して使えるケースを取り上げます。

・死着 → DoA;dead on arrival 
 流通業界の用語で,「死着。輸送した生物が到着時に死んでしまっていること」と定義されていました。IT業界でも,サーバーなどを納品した後,初回電源投入時からすでに動かない故障状態をDoAと言います。DoAは,初期不良(使用開始後90日程度)の段階で見つかる不具合として,製造品質(quality)の評価項目の一つとして使われます。安定運用に入ってから見つかるバグや不具合は,信頼性(reliability)の項目として別扱いになります。

・都市伝説 [都市から誕生した証拠のない噂]→ Urban myth
 Mythはmythology(神話)という単語があるように,架空の話,信憑性が薄い話というニュアンスがあります。「伝説」には,legendという単語もありますが,こちらは「伝説的存在」というように,実在性や信憑性があるというニュアンスです。

He is a legend. (彼は伝説的存在だ)

 野球のベーブルースとか,サッカーのペレ,マラソンのアベベなどの偉大な人物を表すときに使います。

 余談ですが,「Myth Busters」というテレビ番組(Discovery channel)がアメリカにあります。都市伝説があり得ない話(the myth is busted)なのか,あり得る話なのかを半科学的?に実証する番組です。研究所で科学的に実証するのではなく,即席実験室のようなところで,限られた設備と予算で実証しようとする点にエンターテインメント性があり,とてもおもしろい番組です。日本にも「トリビアの泉」という似たような番組がありました。

・なるはや [なるべく早く]→ ASAP 
 As soon as possibleは期限が決まっているわけではないので,裏返せば努力目標でしかない。依頼主は迅速に(何をさておいても最優先で)やってもらうことを期待しているのに,依頼された側は手が空いたらやるという程度に考えていることもあります。そのギャップが問題になることがあるので,仕事上のアクションアイテム(A/I)は締切日をしっかり決めておいた方が無難です。ASAPはエイサップと発音します。

IT企業のマーケティングでも造語は大活躍

 英語でも時々,びっくりするような造語に出会います。最近見かけた例で面白かったのが“Prosumer”。

・Prosumer = Professional + consumer
 SOHO(小規模オフィスを構えている事業者)というプロフェッショナルと,コンシューマー(消費者)とを掛け合わせた造語です。職場(オン)と家庭(オフ)の境界線が曖昧になってきている今日のライフスタイルでは,家庭用の機器が必ずしもコンシューマー用とは限らなくなってきました。市場のセグメントも,上位から順に「ハイエンド/エンタープライズ(大企業)」,「ミッドレンジ/コマーシャル(中堅企業)」,「ローエンド/SMB(中小企業)」とあり,さらにその下に「プロシューマー」と言われるセグメントが登場しています。

 英語でprofessionalといえば,弁護士,医師,会計士,会議通訳などの専門職を指します。こういう業種は個人経営のことも多く,すなわちSOHOなのです。自宅の一室をオフィスにしてビジネスを営むため,法人としてのニーズと消費者としてのニーズが同居しており,カスタマとしての全人像を捕らえようとするとProsumerになるという発想でしょう。

・Co-opetition = competition + cooperation
 競合(competition)しつつ,協力(cooperation)するという意味の造語です。数年前から使われており,今では広く市民権を得ています。

 このように新語,造語を作ることを“coin”といいます。この場合のcoinは動詞で次のように使います。

He is the one who coined the word, “prosumer”
(彼がプロシューマという言葉を造語した張本人だよ)

 今度,アメリカに出張した際には,読者の皆さんも新語や造語を探してみてください。けっこう集まると思いますよ。