パーソナルでもビジネスでも,コミュニケーションになくてはならない存在の携帯電話。通話やメールはもちろんのこと,社内システムにリモート・アクセスしてリアルタイムに情報を取り出したり,特定業務の端末として活用する例も多くなってきた。携帯電話が業務用のモバイル・ツールとして,ノート・パソコンやPDA(携帯情報端末)などと同様の役割を果たすようになった。

 業務に携帯電話を使うといっても,通話するだけなら普通に売られている端末で何ら問題はない。ところが,いざ業務用のデータ端末として携帯電話を使おうと思うと,必ずしも国内で出回っている携帯電話端末が用途にフィットするとは限らない。なぜなら,携帯電話端末のほとんどは,マスマーケットであるコンシューマ向けに作られているからだ。

 携帯電話を業務用の端末として導入したり検討しているユーザー企業に聞くと,「コンシューマ向けではなく,業務向けの端末を出してほしい」という声が多く上がる。その理由は,意外に盲点となっている,携帯電話の持つ“イメージ”にある。
 【IT Pro編集から】直前のパラグラフ中の誤字を修正(「以外に盲点と」→「意外に盲点と」)しました(2005年12月14日)。

メールしているようにしか見えない

 電車の中や街角で,PDAやハンディ・ターミナルを使っている人を見たときには,「仕事で使っている」というイメージを持つ人が多いだろう。ところが,普通の携帯電話に向かって一生懸命に文字を打ち込んでいたら……。見る人によっては,「勤務時間中にメールを打っているのか」「ゲームでもしているのだろうか」と思ってもあながち不思議ではない。携帯電話が業務用のツールとしてよりも,パーソナルな端末として進化してきた“文化”がこの国にあるからだ。

 背広を着た営業担当者が出先から,社内システムにリモート・アクセスしてグループウエアのスケジュールを見たり書き込んでいるとする。この場合は,メールしているのかと思われても,社のバッチを見られたりしない限りは匿名性があるのでどうということはない。問題になるのは,制服で仕事をする人たちである。保守点検作業をするフィールド・エンジニア,物流を担うドライバー,ホテルの従業員。携帯端末でさまざまなデータを取り扱う人が,「あの会社の従業員は遊んでいる」と見られる危険性をはらんでいるのだ。

 そこで,ユーザー企業からは「業務用に見える携帯電話がほしい」という冒頭の発言が出てくる。機能としては十分に満たしていても,「仕事をさぼっている」ように見える端末では導入しにくい。明らかに仕事をしていると見える“業務用携帯電話”が望まれている。

業務用を見据えた端末にはコストの壁

 しかし,要望があれば製品が登場するか,というとそうは簡単にいかない。携帯電話を端末としたシステムを導入する企業には,「端末の導入コストを下げる」という狙いがある。コンシューマ向けに数多く作られた携帯電話端末ならば,法人でまとめて導入すればそれこそ“タダ”同然のハードウエア・コストで初期導入が可能だ。一方,業務用の端末に一企業で数千台の導入規模があったとしても,コンシューマ向けの数十万台と比べると微々たる数字。製造コストがはね返り,ユーザー企業はコスト削減効果を得にくくなる。

 PDAのような見かけを持つスマートフォンが今年になって登場した。7月発売のNTTドコモの「FOMA M1000」や,12月14日に発売するウィルコムの「W-ZERO3」である。国内では業務端末としての利用を想定した機種はほぼ皆無だったが,ようやく“利用時のイメージ”問題をクリアした端末が出てきたわけだ。ただ,企業が待ち望んだはず端末なのに,7月発売のFOMA M1000は現時点まで大ブレークはしていない。その要因の一つに,“タダ同然ではない携帯電話”があることは想像に難くない。

 数十万台の規模でなくとも,安価に業務用の“ケータイ端末”を作る手法へのチャレンジも出てきた。ウィルコムが提供するPHS通信モジュール「W-SIM」を使ったソリューションである。W-SIMには通話・通信のための機能が組み込まれている。これを挿して使うことにすれば,端末メーカーは通信・通話機能を作り込まずに携帯端末を製造できる。少ない端末数でもコスト上昇を抑えた業務用端末が作れる算段である。

「ケータイ=仕事」のアピールが一つの解

 それでも,コンシューマ向けの携帯電話を業務用に流用した方が導入企業のコストは格段に低くなる。要するに,普通の携帯電話で文字を打っている姿が「仕事をしている」と認識されるような世の中になれば,イメージ問題は解決する。これには積極的なアピールしか手がない。携帯電話に会社や業務名称のロゴ・シールを張り付けたり,社名入りのストラップに付けて「業務利用」をアピールするというものだ。

 ここで,一つのアイデアを紹介する。KDDIのモバイルソリューション事業本部 モバイルソリューション商品開発本部 モバイルソリューション1部長である阿部正吉氏の発案だ。「テレビ・ドラマでケータイを使うシーンはたくさんあるが,ほとんどがパーソナルでの利用シーン。著名タレントがケータイをビジネスに活用する役で毎回使ってくれたらイメージが激変するのでは」。抜本的な解決策は,これかもしれない。

岩元 直久=IT Pro ケータイ on Business