情報コミュニケーション科を新設した千葉県立袖ヶ浦高校
情報コミュニケーション科を新設した千葉県立袖ヶ浦高校
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 千葉県立袖ヶ浦高校は2011年9月30日、iPad 2(以下iPad)を活用した教育を実践している情報コミュニケーション科の授業を公開した。同高校では、「10年先の未来型学習」を方針として掲げ、本年度から情報コミュニケーション科を設立した。現状では1年7組の1クラス、男子25名、女子15名の計40名で構成し、iPadを学力の向上やコミュニケーション力の向上に役立てている。授業の中では、各自のiPadを手に持った生徒たちが、授業で学び、その成果を発表する生き生きとした様子が見られた。

iPadで顕微鏡写真を撮影

2人1組で協力しながら花粉の顕微鏡写真をiPadのカメラで撮影
2人1組で協力しながら花粉の顕微鏡写真をiPadのカメラで撮影
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花粉の写真を撮影した後は、プレゼンテーションのスライドを作成
花粉の写真を撮影した後は、プレゼンテーションのスライドを作成
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 授業を公開した5時限目の科目は「生物I」。インパチェンス(アフリカホウセンカ)の花粉を顕微鏡で観察した。顕微鏡のスライドガラスに乗せ、時間が経つにつれて花粉から芽のように伸びる花粉管を観察する。ユニークなのは、顕微鏡の接眼レンズにiPadのカメラを近づけ、花粉の写真を撮影すること。その後、観察した写真を使ったプレゼンテーションのスライドを作成する。

 ある日、情報コミュニケーション科の生徒の1人が接眼レンズにiPadのカメラを近づけると撮影できることを発見した。その発見を授業に取り入れたという。

 「楕円型か、米粒みたいだな」。観察が始まってしばらくたつと、生徒たちのiPadの画面に撮影した花粉の姿が映し出された。生徒たちは2人1組となり、撮影を進める。接眼レンズから少しカメラの位置を離して撮影するのがコツで、うまく撮影できない生徒が隣をのぞき込んで「なんでそんなにきれいに写るのかな」と声を上げるシーンも見られた。

 それでも手でカメラの周辺を覆って外部の光を遮る、1人がiPadを両手で持ってもう1人が画面上のシャッターを押すといった工夫を重ね、多くの生徒が撮影に成功。うまく撮影できた生徒は、プレゼンテーションのスライドをまとめる作業に入る。プレゼンテーションソフト「Keynote」を開き、写真を貼り付け、コメントを書き入れた。

生徒の1人が観察の成果を発表した
生徒の1人が観察の成果を発表した
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 授業の後半には、いち早く作業を終えた生徒の1人ががクラスの前の大型テレビにスライドを写しだし、「15分後には、このように花粉管が伸びてきました」と発表した。作成した資料はオンラインストレージサービス「Dropbox」上のクラスの共有フォルダーに入れることになっている。「月曜日までにスライドを作成し、フォルダーに入れてください」と宿題が出て、5時限目が終了した。

大人顔負けのプレゼンテーション

 6時限目は「情報コミュニケーション」の授業。特別講師として千葉大学教育学部で教育の新しい実践方法の研究をしている藤川大祐教授が招かれた。千葉大学でNPOを立ち上げ、多彩な企業で働く人を招いて講演をしてもらうなど、大人とふれあう場を提供する藤川教授の取り組みを紹介した。このほか東日本大震災の直後、藤川教授はブログ上で教育者として緊急時に教育者が生徒をケアする手段と注意点を訴えた。その後、Twitterなどで大きな反響があったことなどに触れ、「情報を使ってつながることが大事」と訴えた。

6時限目はiPadを使って各自の普段の生活や地元の話題などをプレゼンテーションした
6時限目はiPadを使って各自の普段の生活や地元の話題などをプレゼンテーションした
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 その後は、それぞれの生徒があらかじめ用意していたスライドをiPad上で表示しながらプレゼンテーションをした。テーマは「自己紹介」で、所属している部活のこと、住んでいる地元の町について、文化祭での取り組みなどを紹介した。時間は2~3分。複数のグループごとに分かれ、見学していた千葉大学の学生を相手に話した。

 写真だけでなく、動画を使ってスライドを構成している生徒も多く、はきはきとした口調でプレゼンテーションを実践していた。「普段から原稿を見ないで、自分の言葉で明るく楽しく分かってもらえるように伝えるように指導している」(袖ヶ浦高校の永野直教諭)。それだけに、初対面の人に対してでも臆することはないようだった。授業終了の時間が迫ってくると、順番待ちをしていた生徒が周囲の教育関係者や報道陣にもプレゼンを開始。中には10人ほどの大人を相手に堂々と話す生徒もいて、話し終わると喝采を浴びた。千葉大学の学生も「目を見て話してくれたので良かった」などと生徒にプレゼンテーションの感想を伝えた。

ホームルームの連絡はTwitter

 iPad 2の発売日や震災の影響によって、生徒たちが入手できたのは6月下旬ころ。期末テストや夏休みがあったため、本格的に授業で開始したのは9月からだった。

 それでも現在では、教員が知恵を出し合い、さまざまな授業でiPadを活用している。例えば、漢文の授業で詩の内容に合わせたスライドを作りみんなの前で発表する、地理の授業でGoogleマップを開き扇状地の地形を見る、数学の2次関数の数値を変えたときのグラフの差を見るといった具合である。

 ホームルームの連絡事項は担任の教師がTwitterで流し、空いた時間は生徒との対話やiPadアプリを利用した漢字書き取りのミニテストに使っている。通常の授業でも生徒はiPadを机に置いて、不明な点があれば、検索して調べるといった使い方も。生徒たちにとって最も身近な学習ツールとして定着している。同校では更にiPadを有効活用する方法を研究し実践を重ねて行く方針だ。