今回の講演は法人ユーザーやパートナー向けにフォーカスしたもの。喜久川社長はまず初めに,現在の電気通信市場の課題を挙げていった。「現在の市場全体に踊り場感,閉塞感がある」(喜久川社長)。移動体通信の加入者数は増えているが,売り上げが伸びない状態だ。つまり,ARPU(1契約者当たりの平均月間収入)の下落がますます進行している(写真2)
さらに日本の携帯電話端末のシェアはワールドワイドでは5%に過ぎず,国際競争力を失っていっているのも課題だという。また,日本全国にブロードバンドが普及したが,情報の発信は東京からが圧倒的に多いという事実を挙げて,地方からの情報発信を増やしていきたいと語った。
こうした状況に対するウィルコムの取り組みとして,喜久川社長は以下の四つを挙げた。(1)市場が飽和していく中でも成長できるように,ウィルコムのネットワークの特徴を生かした製品を投入,(2)オフィスでのFMCを,音声でもメールでも実現,(3)マイクロセルの特長を生かした新しい社会インフラの構築,(4)次世代PHSなどを利用した新しいブロードバンド市場の開拓――である。
「WILLCOM CORE」でブロードバンド市場を拡大
喜久川社長は次世代PHSの投入によって「これまでウィルコムはデータ通信によってモバイルのブロードバンド市場をけん引してきた。この市場をわれわれが完成させたい」と意気込む。
「WILLCOM CORE」と名づけられた次世代PHSでは,当初20M~40Mビット/秒でサービスを開始する。その後,100Mビット/秒以上の速度を目指す方針だ。「よくモバイルWiMAXやLTEと比べて,(次世代PHSは)何が違うのかと言われるが,ほとんど一緒です」(喜久川社長)。
実際,これらの次世代モバイル・ブロードバンド技術は,利用可能な帯域幅(最大で20MHz)や,多元接続方式にOFDMAを利用する点,高速化のためMIMOを採用する点など,共通点が多い。
「違うのは,次世代PHSではマイクロセルを利用する点,さらにアップリンクとダウンリンクの速度が同じであること」(喜久川社長)。マイクロセルとは,ウィルコムのネットワークで利用する通常の携帯電話よりずっと狭い半径数百メートル程度のセルのこと。システム上,セル同士が重なり合っても問題なく動作するため,多数のセルを密に配置できる。したがって,「ふくそうに強い」(喜久川社長)といったメリットがあるという。
さらに,次世代PHSのネットワーク構築時に,定点観測用のカメラやセンサーを設置する構想がある。こうしたカメラやセンサーは,カーナビゲーションのシステムや防犯,観光などの各種システムで活用できるのではないかと踏んでいるという。
モバイル端末だけでなく,「家電から医療機器まで,さまざまな機器にW-SIMを組み込んで,相互に接続できるようにしたい」(喜久川社長)。画像や動画の配信ネットワークを構築し,デジタル・サイネージなど各種の動画・画像配信システムに活用する計画もある(写真3)。
これらを実現するにはさまざまなパートナー企業との連携が必要となる。喜久川社長は講演の中で,この支援策としてウィルコムなどが発起人となって「BWAユビキタスネットワーク研究会」を組織することを発表した。これはウィルコムのインフラを活用して,新しいビジネス展開を検討するための研究会である。第1回の総会は7月28日に開かれる見通しだ(写真4,写真5)。