使いやすさや心地よさによってユーザーへの提供価値を高めるUX(ユーザー体験)。だが、UXがもたらすのはそれだけではない。ユーザーが使いやすいシステムは、企業経営の根幹となる「データ」の正確さやリアルタイム性を高めることに直結する。経営にとってデータがかつてより重視される時代、UX重視を打ち出すBtoBベンチャーやSIerの姿勢から学べることは多い。
(大谷 晃司)

ユーザーに使いやすさや心地よさを感じさせ、再度使いたいと思わせる――。こうした意味で使われる「UX」(ユーザー体験、User eXperience)が、業務システムでも重視され始めている。その背景は2点。(1)クラウド利用に伴う業務システムのサービス化、(2)コンシューマー製品/サービスの業務への浸透、である。
(1)の代表例が、勤怠管理や会計システムをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)で提供する“BtoBベンチャー”の勃興だ。こうしたベンチャー企業はサービスを特定用途に特化し、そのための使い勝手を洗練させ、顧客への提供価値を絶えず高めることでユーザーの継続利用を促す。
(2)について真っ先に挙げられるのがスマートデバイスの普及である。NEC 生産本部 デザイン戦略・商品企画グループの河野泉マネージャーは、「業務システムの利用者は日常生活でも普通にスマホやタブレットを使っている。業務システムに対して、『もっと使いやすく』という要望が強くなっている」と現状を説明する。
コンシューマーサービスの影響という点ではSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も無視できない。日報共有サービスを提供するgambaの森田昌宏代表取締役社長は、「業務で使うサービスに対してFacebookやLINEのような使い勝手を要求される」とその状況を語る。
大手ベンダーにもSNSの影響が見られる。米セールスフォース・ドットコムは2013年11月、プラットフォームを刷新し、営業支援や顧客管理に使うアプリに「Feed First UI」と呼ぶSNSのような書き込みフィードを採用したのだ(図)。この理由についてクラレンス・ソー 戦略部門エグゼクティブ・バイスプレジデントは、「ユーザーはフィードに慣れている。FacebookやTwitterを使い、そうしたものにユーザーは抵抗がない」と述べる。
UXはデータ経営の要
ただここまでだと、業務システムを取り巻く環境の変化がUX重視の姿勢を後押ししているだけのようにも見える。だが、企業がUXを重視する本質はその先にある。ユーザーにとって快適なシステムは企業経営に何をもたらすのか、という視点だ。
一つは生産性の向上に対する期待である。システムインテグレータ(SIer)であるインテック プラットフォームビジネス事業部の大谷民雄ユビキタスプラットフォームビジネス企画担当は、「UXにより最短ルートでユーザーが画面にたどりつければ、それだけで生産性が上がる。業務システムこそUXが大事」と同社がUX重視に舵を切った理由を説明する。
もう一つが、UX重視がもたらす“質”の高いデータだ。データ経営が注目を集めているが、ここで重要になるのが、経営判断の基となるデータの正確性や“鮮度”。そこにUXが大きく関わる。
まずスマートデバイスの導入が進むことで現場でも即座にデータを入力して送れるようになった。SNS風のUIがなぜこの時期こぞって採用されるのかも、この文脈から理解できる。使いやすいインタフェースで現場の入力のハードルを下げ、リアルで鮮度の高い情報をいち早く吸い上げるためだ。
アクセンチュア モビリティ サービス グループの丹羽雅彦マネジング・ディレクターはフィールドエンジニアの例を挙げ次のように説明する。「現場で聞いた顧客の声、例えば『他社のこの製品を導入したいと言っていた』『この製品のここが壊れやすい』といったことをその場で“つぶやいて”もらい、それらを集めて解析すれば次の手を打てる」。
もちろん、こうしたフローの成立には集めたデータの解析が重要だが、その基となるデータの“質”は、UXにかかっているといっても過言ではない。UXのレベルが低ければ、経営判断や意思決定に欠かせない現場の正確な情報が集まって来ない。まさにUXは経営の武器になるのだ。
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