
総務省は,9月10日から2.5GHz帯免許の申請受付を開始した。この周波数帯は,伝送速度が最大数十Mビット/秒になる無線ブロードバンドの実現を狙って開放したものだ。こうした動きに対しウィルコムは,「次世代PHS」によるサービスを掲げ,先頭を切って名乗りを上げた。同社の喜久川政樹社長に,次世代PHSのサービス像やネットワーク整備,投資などの計画を聞いた。
モバイルWiMAXを提案する事業者が多いなか,なぜウィルコムは次世代PHSを担ぐのか。
我々が持っている資産をうまく活用した上で,広いカバー・エリアと高速通信を両立させるためだ。モバイル事業では,限定的なエリアを対象にしたサービスで成功したものは一つもない。事実,我々もそれで苦労してきた。次世代PHSを導入するに当たって,現行PHSのように16万の基地局をもう一度ゼロから設置するというのは絶対にやりたくない。ここまでカバー範囲を広げてきた現行のPHSインフラをフル活用したい。
次世代PHSの端末は,次世代PHSだけでなく現行PHSにも対応させるつもりだ。こうしておけば,次世代PHSがカバーするエリアでは最大数十Mビット/秒の高速通信を利用でき,まだカバーできていないエリアでは現行PHSで通信できる。現行PHSも高速化を図っており,1Mビット/秒近いスピードを出せるよう開発を進めている。
このように二つの方式を組み合わせたサービスを提供するには,現行PHSと次世代方式が連携して動くような基地局設備を計画的に敷設していく必要がある。だから,モバイルWiMAXと同等の無線技術を使いながらも,現行PHSとの間で相互運用性が確保されている次世代PHSを選んだ。
次世代PHSの機器メーカーとしては,三洋電機と京セラが基地局の試作機を作っている。端末メーカーは調整中の段階だ。
総務省の指針では,5年以内に総合通信局の各管区での人口カバー率を50%にすることを,免許付与の条件にしている。次世代PHSについては,どのようにネットワークを広げる計画なのか。
次世代PHSは,我々の事業の基幹となる。制度上のハードルである人口カバー率50%でネットワーク構築を終わりにはしない。ユーザーの満足度を高めるためにも,早期に人口カバー率を80%,90%に引き上げていく。サービスを開始して3年間くらいは集中的にエリアを作っていくつもりだ。仮に 2.5GHz帯の免許を頂けるとしたら,2009~2011年または2010~2012年ころが集中的に投資する時期になる。
当初は,特にトラフィックの多い場所に次世代PHSを導入していく。移動通信では常識になっているのだが,全体の2~3割の基地局で8~9割のトラフィックが発生している。まずはこうしたエリアから次世代PHSの提供を始める。
将来的には,現行のPHSサービスを止めて次世代PHSだけを提供することになるかもしれない。ただし,実際に一本化するかどうかは,まだ決めていない。提供しながら考えていく。
無線ブロードバンド・サービスのインフラ構築には,数千億円が必要になるとの声がある。
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撮影:吉田 明弘 |
確かに,ゼロからモバイル事業を始める企業は,3000億円とか5000億円という資金を用意しなくてはならない。しかし我々は,ゼロからやる事業者とは立ち位置が全く異なる。
ネットワークを作るには,基地局を設置して,そこに回線を引き込まなければならない。バックボーンのネットワークも必要だし,IP網を運用するための様々なサーバーやデータベースも必要になってくる。我々の場合,これらを現行のPHSで構築しており,その中には次世代PHS事業に流用できる資産がたくさんある。
例えば,現行のPHSを高速化するために,トラフィックの多いエリアを中心に基地局までの回線を光ファイバに変え始めている。次世代PHSへの投資を始めるころには,基地局とバックボーンを結ぶ高速なIPインフラはほぼ出来上がっているだろう。何より16万の基地局設備を持っている。そこに次世代PHS 基地局を併設したり,現行PHSと次世代PHSを一体化した基地局を設置したりできる。設置場所を新たに確保するコストはかからない。
我々の今の設備投資額は,2006年度実績で年間およそ300億円である。次世代PHS網の整備も,基本的には通常の設備投資の範囲内で済むと考えている。ただし,インフラを集中的に作る初期の3年間に限っては,若干上積みすることになると思う。
>>後編
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(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年8月24日)