2012年7月1日午前9時、日本標準時(JST)に「うるう秒」が1秒挿入された。具体的には、7月1日午前9時0分の前に「午前8時59分60秒」が挿入されたのだ。結果から言えば、うるう秒の挿入によって重大なシステムトラブルは発生せず、一部の軽微なトラブルにとどまった。しかしだからといって、うるう秒対応に問題がないとは言い切れない。むしろ今後、重大なトラブルを引き起こす元凶になりかねないのだ。

 実際、うるう秒によって世界中でいくつかのトラブルが報告された。国内も同様だ。例えばさくらインターネットは、うるう秒によって2種類のトラブルがあったことを明らかにしている。

 一つはうるう秒挿入の24時間前から、NTP(Network Time Protocol)経由のうるう秒実施予告を受け取ったLinuxベースのシステムで動作に異常があり、再起動が必要になったというもの。もうひとつは、Linuxカーネルの一部のバージョンでうるう秒挿入後にCPU使用率が上昇するという問題があり、該当するシステムを利用していた仮想サーバーに影響があったというものだ。

 この原因になったと思われるのは、今回新たに発見されたLinuxカーネルの不具合。該当するバージョンのカーネルを組み込んだLinux OS(Red Hat Enterprise Linux 6、Ubuntu 12.04、SUSE Enterprise Linux 11など)で、MySQL5.5を利用し、かつNTPサーバーがうるう秒実施予告を送信してきた場合などにCPU使用率が上昇するというものだ。なお、該当するLinuxカーネルでは既に修正が行われている。

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「mixi」でも、うるう秒を原因とするトラブルが発生した。7月1日午前9時から約4時間にわたってシステム障害が発生し、つながりにくくなってしまったのだ。

写真1●NPO法人 情報セキュリティ研究所 上原哲太郎氏
写真1●NPO法人 情報セキュリティ研究所 上原哲太郎氏
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 うるう秒挿入について、総務省所管の独立行政法人である情報通信研究所(NICT)は、5月11日に説明会を実施し、トラブルの可能性についても言及していた。とはいえ、一般には、1秒以下の時間を使うシステムといえば証券取引所で高速の自動売買を行うようなシステムや1秒以下のタイムスタンプを保証するようなサービスなど、一部の特殊なシステムであると考えられていた。

 IT業界全体を見わたすと、うるう秒については、さほど関心事になっていないのが実情と言える。

 しかし、システム管理に詳しいNPO法人の情報セキュリティ研究所 上原哲太郎氏(写真1)によれば「前回、2009年のうるう秒挿入時にもトラブルは発生しており、今回も、対策を講じようと努力していたシステム管理者はいた」と、広範囲に影響が出る可能性が懸念されていたと主張する。