IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(編集:日経情報ストラテジー

ダメな“システム屋”上司と部下の会話
ダメな“システム屋”上司 「プロジェクトの状況はどうなんだ?」
部上 「少し遅れが出ています。要件の考慮漏れと、性能問題です」
ダメ上司 「どのぐらいの遅れ?」
部下 「トータルで2日分の遅れです」
ダメ 「で、どうなんだ?」
部下 「要件はユーザーが今日中に決めるので追い付けますが、問題は性能です」
ダメ 「で?」
部下 「まだ原因不明ですので見積もりはできません」
ダメ 「来月1日の稼働予定は分かっているだろうな?」
部下 「もちろんです。明日からの週末も原因究明に当たります」
ダメ 「本番延期はあり得ないぞ」
部下 「全力を尽くします」
ダメ 「で、本当に大丈夫なのか?」
部下 「まだ何とも言えませんが」
ダメ 「おいおい、それじゃ困るんだよ。大丈夫だろうな?」
部下 「がんばります」
ダメ 「がんばるかどうかはどうでもいいんだよ、大丈夫だろうな?」
部下 「分かりました。大丈夫です(・・・こう言わないと終わらないんだよな、まったく・・・)」

ダメな理由:「大丈夫か」は無意味な質問

 前回はチームプレーを崩壊させるメンバーについて書きましたが、当然、チームプレーを監督できないダメな“システム屋”上司もまた存在します。

 上の会話の中のダメ上司の質問は、「大丈夫か」と聞くものの、大丈夫でないという答えを許さないものです。つまり、無意味な質問です。

 例えば、サッカーの試合で審判が倒れた選手に「大丈夫か」と聞きます。選手は立ってそのままプレーできるか、いったん外に出るか、あるいは救護班を呼んで外に運び出すか、この3択のいずれかとなります。それを決めるのが審判であり、そのための質問が「大丈夫か」なのです。審判の仕事は判断をすることであり、その結果、必要であれば救護班という外部資源を活用します。

 上司がプロジェクトメンバーを呼んで「大丈夫か」と聞く場合、上司の仕事は何でしょうか。大丈夫ではない、このままでは危ないと感じたとき、上司はどんな行動をするのでしょうか。

 実は、既に何もしないと決めている上司は、大丈夫でないという答えを許しません。そして最悪の上司は、後で何かが起きたら「あのとき大丈夫と言ったじゃないか」と部下を責め、自分の責任を回避するのです。

 私が知っている最悪の上司は、プロジェクト本番稼働前の3カ月間、毎週土曜日の朝に全員を集め、「大丈夫です」と言うまで会議を引っ張り、言わせた直後に1人で帰っていました。無駄な時間を使いたくないメンバーたちはとりあえず「大丈夫です」と言って上司を帰らせ、その後、具体的な問題点の確認と対策を検討していました。

 名選手が名監督に必ずしもならないように、有能なエンジニアだからといって有能な上司になるわけではありません。

 チームリーダーやデザイナーとして実力を発揮した人が、プロジェクトマネジャーや管理職に昇進した途端、付加価値を出せなくなることはよくあることです。役割の違いや生み出すべき付加価値の違いが理解できないまま、部下からは邪魔者扱いされます。

 こうしたダメ上司の側も、薄々そのことに気づくのでしょう。やけに優しい人柄に変身するか、あるいは恐怖政治を敷くかのいずれかになる傾向があります。