前回の記事では,2.5GHz帯の周波数を利用した次世代高速無線通信サービスに参入を決めた2社のうち,モバイルWiMAX方式を採用する「ワイヤレスブロードバンド企画」(WB企画)を取り上げた。2回目の今回は,次世代PHS方式を採用するウィルコムの戦略を探る。


ウィルコムの次世代PHSシステムのデモの様子
写真●ウィルコムの次世代PHSシステムのデモの様子
[画像のクリックで拡大表示]

 WB企画とともに認定されたウィルコムは,次世代PHS方式(写真)で免許を獲得した。今でこそ米国の投資ファンドであるカーライルグループの子会社であるが,その源流は,NTTの元技術トップとしてデジタル通信技術を熟知していた千本倖生氏をスカウトした後に,京セラの稲盛和夫氏が設立した第二電電(DDI)のDDIポケットである。

 現在,日本でPHSサービスを提供しているのは,NTTドコモの撤退に伴いウィルコムだけとなった。そのPHSサービスの特徴は安価な料金であり,PHS端末同士なら,すべての時間帯で安い料金プランが実現している。また台湾やタイでは,ローミングも実施されている。中国でも大都市を中心に,PHS規格が存在する。もっとも各大都市間で事業者が異なる点から,音声端末としては携帯電話よりも安い域内サービスとして使われているようだ。





既存加入者の囲い込みを強化へ

 筆者は携帯電話機とウィルコムのシャープ製端末を,移動時の通信手段にしている。同社のカード型端末向け高速データ通信サービス「AIR-EDGE[PRO]」と定額電話プランのセット料金が月額6000円程度になるという割引サービスに,加入すべきかどうか悩んでいるところである。

 そのため,ウィルコムがこうしたセット料金を次世代PHSサービスにも導入すれば,既存加入者の移行インセンティブが働くだろう。そうなれば加入者の獲得で,同社が主導権を握る可能性がある。

 また,端末と料金プランの組み合わせが複雑になり,現場の販売担当者でさえ混乱している事情も考える必要がある。今回のモバイルWiMAXと次世代PHSによる高速無線通信サービスが,利用者に分かりやすい料金体系による高速インターネットサービスを実現する契機になってほしいと感じている。



佐藤 和俊(さとう かずとし)
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。