NGNの高い品質と信頼性に期待
テレビを見る視聴者には,最も視聴時間の長い地上波放送の映像品質や安定性,可用性が基準となる。この基準よりも水準が低い映像コンテンツは,受け入れ難いものになりかねない。
特に,2007年6月末現在で地上デジタル放送受信機の普及台数が2200万台を超える状況の下,大画面テレビでハイビジョン放送を体験した視聴者には,SD(標準解像度:standard definition)コンテンツを有料で利用することに抵抗感を持つ可能性が高い。このためIPTVではHD(高解像度:high definition)画質で高い信頼性を確保できる配信システムが不可欠であり,その中核となるNGNに期待がかかる。
こうしたコンセプトの具現化を目指し,NTTコミュニケーションズはNGNフィールド・トライアルでハイビジョン映像配信トライアル・サービスを提供している。2006年12月に設置されたショールーム「NOTE」で公開を始めた。その後,2007年4月から始まった約500の一般モニターへの展開にも着手。2007年12月までの予定で,技術・運用・マーケティング面からの様々な検証を実施している。
サービス・メニューは,(1)NGNトライアル網のIPv6マルチキャスト機能を利用したIP自主放送サービス,(2)ユニキャストによるVODサービス,(3)視聴者と様々なやり取りを行うためのBMLベースのポータル・サービスを提供している。検索の利便性を高めるために,IP自主放送のためのEPG機能やVODのためのECG機能を活用したサービス提供している(図5)。
図5●ハイビジョン映像配信トライアルで利用できるサービスのイメージ NGNから家庭に設置したONUとHGWを経由してハイビジョン映像を端末まで届ける。 [画像のクリックで拡大表示] |
さらに現時点では東京都内に限り,地上デジタル放送のIP再送信を提供中。ユーザーが地上デジタル放送番組を視聴できるようにした。
(1)システム構成と技術仕様
本トライアルの技術方式のアーキテクチャは一部を除き通信事業者と家電メーカーが連携して作成した共通技術仕様に準拠する(表1)。
表1●ハイビジョン映像配信トライアル技術仕様 [画像のクリックで拡大表示] |
映像符号化方式は,H.264/AVC HP@L4.0を採用。HD規格の映像ストリームを10Mビット/秒程度に圧縮したうえで,MPEG-2システムとして多重化し,RTP/UDPで伝送する。安定した映像品質の確保のためにNGNトライアル網のQoS(quality of service)機能を活用し,エラー訂正のためのFEC(forward error correction)としてPro-MPEG方式を採用する。
IPTV視聴用の端末として,テレビ一体型タイプとSTB(セットトップ・ボックス)タイプがある。どちらも,NGNのUNI(user network interface)を終端するONU(光回線終端装置:optical network unit)からホーム・ゲートウエイ(HGW:home gateway)経由でNGNに接続している。端末に備え付けられたリモコンは,チャンネル選択やEPG機能などの利用の際に,デジタル放送と同様のキー操作が可能である。
(2)データ放送を映像配信に連動
地上デジタル放送などのデータ放送は,いわゆるデータ・カルーセル方式によりBMLデータなどをAVストリームに多重化することで番組提供を実現している。ハイビジョン映像配信トライアルでは,BMLデータなどをAVストリームに多重化するのではなく,一般的なWebサーバーと同様に端末がポータル・サーバーからBMLデータを取得する方式をとっている。ポータル・サーバーに接続する際には受信機のIDを確認するため,オンデマンド性を活かした動的なコンテンツ提供が可能となる。
具体的には,視聴者専用のポータル画面を提供する。このポータルを通じてVODやIP自主放送のメニュー表示や各サービスの申込窓口,視聴履歴などの参照といった機能に加えて,視聴者の属性や過去の視聴履歴に応じてお薦めのコンテンツを提案するといったリコメンデーションなどのポータル・サービスが提供可能となる。
さらにIP放送やVODによる映像コンテンツに,BMLコンテンツのデータ放送を重ねて,L字型の画面として表示することも可能である(図6)。こうすると現時点で視聴している放送やVODにも関連させたコンテンツ(例えば同一シリーズのほかの作品や視聴者属性にマッチしたCMなどのVODコンテンツ)の視聴に視聴者を誘導できるようになる。
図6●ハイビジョン映像配信トライアルで利用できる画面のイメージ ユーザーごとにカスタマイズしたBMLデータを送るため,別のコンテンツの視聴にユーザーを誘導しやすい。 [画像のクリックで拡大表示] |
ハイビジョン映像配信トライアルでは共通技術仕様をベースとして,様々なコンテンツ・ホルダーとともに多様なアプリケーション・サービスを企画・開発・提供している(表2)。
表2●NGNフィールド・トライアルで実験されているハイビジョン映像配信 様々な業種の企業が参加して実験を進めている。 [画像のクリックで拡大表示] |
視聴者に受け入れられるには課題も
NTTコミュニケーションズでは,本トライアルの検証結果を将来のNGN商用サービスへの展開に生かしていきたいと考えている。ただし,IPTVサービスが視聴者に受け入れられるには,ほかにもいくつかの課題が存在する。
(1)家庭内の物理的配線
家庭内のテレビまでIP方式で配信するための物理的配線(無線LAN,高速電力線通信などを含む)とそのQoS制御をどうするべきか。さらにアクセス・ネットワークも含めた問題として,家庭内にある複数台のテレビ視聴ニーズへの対応が必要である。
(2)視聴者の特定
IPの特性を活かしたCRM(customer relationship management)を展開するには,テレビの視聴者が家族全員なのか個人なのかなどを明確にする必要がある。同じ視聴者でも,視聴ニーズが明確な場合と不明確な場合が時系列的に変化するようなケースも想定される。こうした情報を収集する使い易くて柔軟なユーザー・インタフェースが必要である。
(3)双方向性を活かしたコンテンツ
現状のIPTVの提供コンテンツは一方向に流す作品がほとんどである。IPの双方向性とオンデマンド性を生かせるコンテンツがあれば,さらに顧客の満足度は高まるだろう。
(4)他の通信サービスとの連携
IPであれば,IPTVだけでなく電話やインターネット,さらに携帯電話サービスなどとのシナジーを追及し,付加価値の高いサービスの提供が可能であろう。人間の知的生産・消費活動をトータルにとらえ,最適な役割分担を具現化していく必要がある。
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