Advanced TCA(telecom computing architecture)は通信事業者向けコンピュータの物理的/論理的な仕様を定めた規格。国際標準のハードウエアを利用することで通信事業者のサービス開発期間/コストの削減を可能にする。小型のボードだけでシステムを構成するμTCA規格も定めている。
通信事業者のネットワークがNGN(次世代ネットワーク)に向かう中,通信機器市場ではプラットフォームの標準化が急速に進行している。
かつて通信機器は,交換機など専用のハード/ソフトで構成したシステムが主流だった。特に公共のメディアを取り扱うことが多い通信機器は,高い信頼性と堅ろう性を要求される。このため,この分野を得意とするベンダーが,専用のハード/ソフトでシステムを開発する方法を採っていたのだ。
しかしこの開発手法は限界に来ている。専用品ゆえに特殊な機能を開発できるが,開発期間/費用が増大する。製品やサービスの多様化が進む中で,この手法のままではたちまち商品の競争力がなくなってしまう。このため,通信機器に求められる高い信頼性と堅ろう性を満足するキャリア・グレード・アーキテクチャを,国際標準規格として制定する動きが始まっている。
国際標準に基づいて開発した汎用品を扱うことで,通信事業者はCapEx/OpEx(投資・運用コスト)の削減が図れ,エンド・ユーザーへのサービス提供サイクルを短縮して,競争力を高められる。通信機器ベンダーは,得意な領域に開発を集中できるため,開発期間/費用の削減が可能となる。
ハードの物理/論理的な規格を定義
図1に,キャリア・グレード・アーキテクチャと国際標準化団体の関係を示す。図1の一番下にあるPICMGが定めた「AdvancedTCA」が,ハードウエアの物理的,論理的な規格である。
図1●ATCAを巡る標準化動向 通信事業者向けコンピュータの物理的/論理的な仕様を定めるATCAはPICMGが規定する。 [画像のクリックで拡大表示] |
その上のOS関連の規格はLinuxファウンデーションが定めている「CGL」で,さらにその上にある2重化制御などの機能を有するHA(high availability)ミドルウエアはSAFが定義している。
これらの規定策定団体とは別にSCOPEアライアンスとCP-TA(Communications Platforms Trade Association),MVA(Mountain View Alliance)という団体がある。
SCOPEアライアンスはキャリア・グレードのプラットフォームとして現在の最適なオプションを選定する業界団体である。各団体が策定する規定にある様々なオプションの選定で,ベンダー間の互換性がなくなることを防いでいる。CP-TAはキャリア・グレード・プラットフォームの製品間の互換性を保証するために相互検証を行う。MVAはこれら各団体の連携により規格の普及を加速させる。
SWBからスター型の配線が一般的
PICMGが定めたATCA関連の規格にはPICMG3.xの番号が割り当てられている(表1)。PICMG3.0はATCAの基本的な構造や冷却条件,給電条件,シェルフ管理にかかわる規格を定める。PICMG3.1~3.6はファブリック・インタフェースによるデータ転送に関する規格である。実際に製品として広まっているのは,3.1のAdvancedTCA Ethernetである。
表1●PICMG Advanced TCA関連規格(出典:PICMGホームページ) PICMG3.0はATCAの基本的な実装構造などを定める。PICMG3.1~3.6はファブリック・インタフェースによるデータ転送に関する規格である。 [画像のクリックで拡大表示] |
図2に,ATCA規格を実現するシャーシの接続構成例を示した。ブレードは相互にベース・インタフェースとファブリック・インタフェースを介してデータを転送する。それぞれSWB(スイッチ・ブレード)を中心にスター型に配線されるのが一般的である。
図2●ATCA規格によるシャーシ配線例 2~13のスロットにATCAカードを接続する。両端にある(1と14のスロット)SWB(スイッチ・ブレード)にスター型に配線される。 [画像のクリックで拡大表示] |
LANスイッチは2重化による冗長構成を採るため,それぞれのLANスイッチからスター型に配線される。このように,2重化したSWBからの接続形態をデュアルスター(DualStar)と呼ぶ。
データ転送とは別にIPMBを設置
ATCAのもう一つの大きな特徴は,IPMBと呼ぶインタフェースを,データ転送経路と別に設置しているところ。このIPMBが通信事業者向け機器に不可欠な高信頼性を可能にする。
IPMBを通じてShMCは,CPUブレードに加えてFTMやPEMを含むすべての交換可能部品(FRU:field replacement unit)を監視する。各ブレードの電圧,温度といったハード異常だけでなく,CPUの暴走などのソフト異常も検出し制御する役割を担う。
ShMCはIPMIを通じて各FRUにホットスワップ・メカニズムを提供する。これにより,ソフトウエアを介在させずに保守作業が可能になるなど,信頼性の向上が図られている。ShMCは温度上昇を検知した場合に,ファンの高回転化やブレードの電源制御といった処理も自律的に実行する。ATCAには,従来の通信事業者向けの交換装置に備わっていた高信頼性機能が,標準化によって実装されたと言える。
SAFとPICMGは,RMCP(remote management control protocol)と呼ぶインタフェースを規格化。ShMCから装置を管理するCPUと通信できるようにした。さらにSAFは,上位ソフトからShMCを制御するインタフェースとしてHPI(hardware platform interface)を規定。ミドルウエアまでも規格化することで,ベンダー間の互換性確保を図っている。
ATCA Ethernetによるデータ転送の規格PICMG3.1は,1~9のオプションを定義し,LANスイッチから各ブレードに接続するEthernetのポート数を定めている(表2)。現在の主流は1Gビット/秒のEthernet(オプション1~3)だが,オプション9は4ポートすべてを使って,10Gビット/秒のXAUI(10 gigabit attachment unit interface)インタフェースを定めている。最近になって各ベンダーが,10Gビット/秒のスイッチ・ブレードや,10Gビット/秒のイーサネット・インタフェースをサポートするブレード製品を発表している。高速・大容量のデータ転送が必要な領域にも,ATCAを展開可能になった。
表2●ファブリック・インタフェースの詳細(PICMG3.1のオプション) 1~9のオプションで,LANスイッチから各ブレードに接続するATCA Ethernetのポート数を定めている。 [画像のクリックで拡大表示] |
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