既存電話網からNGNへの移行には,既存電話機などを使って電話サービスを実現するPSTN/ISDNエミュレーションと,IPインタフェースで電話の類似サービスを提供する同シミュレーションがある。実現には異なるネットワーク・アーキテクチャが必要になり,移行の際の網構成は変わってくる。

  サービス統合ネットワークを目指すNGN(次世代ネットワーク)では,電話サービスをどう提供するかが重要なポイントとなる。電話サービスを既存の電話網からNGNへと移行してサービスを実現することを,PSTN/ISDNエボリューション(以下,エボリューション)と呼んでいるが,その方法はユーザーに提供するインタフェースとサービス・メニューにより,二つのパターンに分類されている。

  「PSTN/ISDNエミュレーション」(以下,エミュレーション)は既存インタフェースと端末を使い,ユーザーに既存の電話と同等のサービスと操作性を提供する方法である。「PSTN/ISDNシミュレーション」(以下,シミュレーション)はユーザーにIPインタフェースを提供。既存の電話と類似のサービスに限定されるが,FMCなどの新しいサービスも提供する方法である。

  二つのパターンに明確な線引きはないので,現行の電話サービスを例にみると,NTTの加入電話/ISDNサービスをNGN上で実現することがエミュレーションに相当する(図1)。直収電話は,加入電話/ISDNサービスの一部をカバーしているが,このようなサービスをNGN上のIP電話として実現することが,シミュレーションの一つの形態に相当する。

図1●PSTN/ISDNエミュレーション・シミュレーションのサービス例
図1●PSTN/ISDNエミュレーション・シミュレーションのサービス例
ブロードバンド上の電話サービスはシミュレーションに分類される。
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  ADSLやFTTHなどのブロードバンド・アクセスを利用した電話サービスは,マルチメディア・サービスやFMCサービスへの展開が見込まれ,新たなサービスを提供するシミュレーションの形態としてとらえることができる。

事業者の戦略や事業環境を基に選択

 エミュレーションとシミュレーションのどちらかの方法を採るか,あるいは双方を並存させるかは,通信事業者の戦略や事業環境に依存する。

 電話事業収入=加入者数×ARPU(加入者1人当たりの売上高)のため,通信事業者の基本的な方策はシミュレーションによって,電話サービスに新しいサービスを融合させてARPUを高めることになるだろう。これがNGN構築の狙いの一つである。

 一方,既存の電話ユーザーや交換設備を多く持つ通信事業者にとっては,交換設備の老朽化に伴い電話ユーザーを収容しきれないといった場合,コストを抑えて設備を更改するかが課題となる。その有効な解決手段がNGN化であり,ユーザーに設備更改を意識させないためにエミュレーションによるサービス維持が必要となる。

 具体的には,電話事業収益=加入者数×ARPU-CapEx(投資コスト)-OpEx(運用コスト)となるため,以下のようなコストダウンが図れる。

 投資コストの削減は,専用品である交換機よりも安価で,標準化・汎用化されたサーバーやルーターでネットワークを構成することで実現できる。伝送網に相当するトランスポート・ストラタムも,IP化の多重効果により効率化が図れる。

 運用コストの削減は,交換機保守の専用技術者+IP網保守技術者の2重体制ではなく,NGN化によってほかのIPサービスの保守体制と共通化することで実現できる。