Lesson1はIPの全体像を確認することから始めよう。

 IPは「internet protocol」の略で,プロトコルの一種である。その目的は,いくつものネットワークを通じてつながっているコンピュータの間で,アプリケーションのデータをやりとりすることだ。

 IPの仕様は「IETF」という標準化団体が決めている。1978年に作られた「IPv4」と1995年に作られた「IPv6」がある。今回は,現在主に使われているIPv4を中心に話を進めていく。

 IPは,場所やアプリケーションの種類を問わず,あらゆるシーンで活躍している。

 場所を見ると,インターネットをはじめとして,家庭や企業のLAN,IP電話事業者,通信事業者のネットワークなど,いたるところでIPが使われている。アプリケーションに目を移すと,一般になじみのあるWebや電子メールのほか,IP電話や映像配信など,従来は別のプロトコルで実現していたアプリケーションも,今やIPを利用するようになった。IPは「プロトコルの万能選手」と言えるだろう。

ルーターがIPパケットを中継

 IPは,「IPパケット」という単位でデータをやりとりする。パソコンやサーバー上で動作するアプリケーションがIPを使って通信する場合,どんなアプリケーションのデータもいったんIPパケットに詰め込んで送り出すことになる(図1-1)。こうすることで,アプリケーションの種類を問わず,共通の方法でデータを運べるのである。

図1-1●データを入れたIPパケットをルーターが届ける
図1-1●データを入れたIPパケットをルーターが届ける
IPの基本的な役割は,アプリケーションのデータをIPパケットに入れて,コンピュータからほかのコンピュータへ届けること。途中でさまざまな種類の伝送路が使われているが,ルーターがIPパケットをそのまま載せ替えることで,エンド・ツー・エンドのアプリケーション通信を可能にしている。
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 パケットは小包という意味を持つ。その名の通り,IPパケットを小包に例えると,アプリケーションのデータはその中に詰める荷物ということになる。

 IPパケットを運ぶ役割を果たすのは,「ルーター」という装置である。最近では,このルーターとLANスイッチの機能を兼ね備えた「レイヤー3スイッチ」というネットワーク機器も,IPパケットを運ぶ装置として数多く使われている。

 IPパケットを受け取ったルーターは,適切な転送先を自身で判断してIPパケットを中継する。いくつものルーターがこうした処理を繰り返すことで,IPパケットはバケツ・リレーのように転送され,最終的なあて先に届けられる。

 ルーターは,さまざまなネットワークで使われている伝送技術の違いを吸収する役割も果たしている。例えば,個人宅のLANではイーサネットや無線LANが使われているし,プロバイダのネットワークでは光ファイバによる高速伝送技術が活躍している。ルーターは,これらの異なった伝送技術を使うネットワークを相互接続し,透過的にIPパケットを転送する。

 IPパケットを小包になぞらえると,伝送技術はトラックに当たる。小包を運ぶトラックが途中で変わっても,小包自体は変わらずに,最終目的地に届く。

IPを中心にしたプロトコル体系

 今度は,別の角度からIPの全体像を眺めてみよう(図1-2)。

図1-2●プロトコルの中心となるIP
図1-2●プロトコルの中心となるIP
プロトコルの階層構造で見たIPの位置付け。下位のプロトコルの違いを吸収し,上位のプロトコルを統一的に扱うのがIPの役割である。
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 通信はいくつものプロトコルを組み合わせて実現するが,それらのプロトコルは分担する機能ごとにレイヤー(階層)状になっている。

 IPのレイヤーは,複数のネットワークを介してつながっているコンピュータ間で,IPパケットを受け渡すという機能を受け持っている。IPの上位にあるレイヤーと下位にあるレイヤーもそれぞれの役割がある。

 IPをレイヤーとしてみると,下位の伝送技術の違いを吸収し,上位のアプリケーションに共通したデータ転送の手段を提供している。IPのおかげで,さまざまな伝送技術を使って,さまざまなアプリケーションの通信を実現できるわけだ。