◆NAS(Network Attached Storage)

 同じネットワーク型ストレージに分類されていても,NASの仕組みはSANと大きく異なる。NASは,機能的には「ファイル・サーバー」と同等であり,ファイル共有サービスに特化したアプライアンスと考えてよい。ファイル共有に最適化した専用OSとファイル・システムを備え,管理も容易になっている。インターネット経由でリモート管理ができ,WAN経由でメンテナンスできるというNAS装置もある。

 NASはストレージ専用のファイバ・チャネルにつなぐのではなく,イーサネットのLANに接続する。クライアントPCやサーバーからファイル・サーバーの共有ディスクのように利用でき,異なるOSのサーバーやPCの間でもファイル共有できることが大きな特徴である。

 一部のエントリ・クラスのNASを除き,ディスク・ストレージ部分はほとんどRAID構成により耐障害性を高めている。多数のクライアントPCやサーバーからのアクセスに対して,ファイル共有サービスが停止しないように耐障害性を高める必要があるからだ。

 NAS上の共有ファイルにアクセスするためのプロトコルとして,NASは「NFS(Network File System)」や「CIFS(Common Internet File System)」をサポートしている。NFSはUNIX系のファイル共有プロトコル,CIFSはWindows系のファイル共有プロトコルである。これらのプロトコルを使ってNASに接続すれば,NAS上のファイルをローカル・ディスクにあるファイルと同様に扱える。

ディスクの扱い方やデータ転送方法が全く違う

 SANとNASの違いが分かりづらいという声も聞かれるため,ここで両者を比較してみよう。図5[拡大表示]は,SANに使われるストレージ装置とNASを「ファイル・システム」の存在する場所を基点に比べたものである。

 NASは前述した通り,ファイル・サーバーと機能的に同等なため,ファイル・システムはNAS自身が装備している。それに対してSAN接続のディスク装置内にはファイル・システムが存在しない。そのディスク装置を接続して使うサーバー側にファイル・システムが存在する。データの経路を見ると,NASがTCP/IPネットワークのイーサネットを標準的に用いるのに対し,SANはファイバ・チャネルといったストレージ専用ネットワークを用いる。

 データ転送の単位は,NASにアクセスするときはファイル単位となる。つまり,NASへのデータ・アクセスでは,ファイル名や共有名などファイルを特定する呼び名で管理している。

 これに対し,SANの場合はブロック単位の処理になる(通常1つのファイルは1つまたは複数のブロックで構成される)。SANでは,リモートにあるディスク装置内のディスクが,あたかもローカル・ディスク(RAWデバイス*4)であるかのように振る舞う。ディスク上の個々のビットの位置を特定するのに必要な手順がNASと比べて少ないため,高い入出力性能が求められるデータベース環境に向くと言える。

 しかし,こうしたSANの振る舞いには危険も伴う。前述したように,ディスク装置上の同じ領域に異なるOSのサーバーがアクセスすると,ファイル・システムなどを破壊する恐れがあるからである。そのためにゾーニングなどの手法が必要とされる。

NASとSANは融合する方向へ

 NASとSANの性格は全く異なるが,両者を統合することも可能だ。NAS製品の中には,ディスク装置部分を切り離し,ファイル・システムとコントローラだけを独立させたNASゲートウエイ(NASヘッド)というものがある。これはSAN上のディスク・ストレージのフロントエンドとして利用できる(図6[拡大表示])。サーバーやクライアントPCはイーサネットを通して,SANのディスク装置をNASとして利用できるようになる。

 NASゲートウエイを導入しても,サーバーはファイバ・チャネル経由でSANのストレージ装置に直接アクセスすることができる。このようにアクセスの多様性を持たせながらNASとSANを共存させれば,ストレージの使用効率を高め,管理を一元化することも可能となる。

◆iSCSI(Internet SCSI)

 SANの主流はFC-SANだが,最近はIPネットワークをデータ経路として利用する「IP-SAN」が注目され始めた。イーサネットのスピードが1Gビット/秒に達したことを受け,LANの世界で実績のあるTCP/IPとイーサネットをSANに応用しようという動きだ。IP-SANには,「FCIP(Fibre Channel over IP)」「iFCP(Internet Fibre Channel Protocol)」「iSCSI(Internet SCSI)」という規格がある。この中で最も期待されているのがiSCSIである。

 iSCSIのメリットは,既存のIPネットワーク用機器(スイッチやケーブル)を使ってSANを構築できる点にある。FC-SANのように比較的高価なファイバ・チャネル・スイッチや光ファイバを必要とせず,導入コストを抑えられる。

 iSCSIは,その名の通りSCSI技術の延長線上にある。SCSIコマンドおよびそれに伴うデータ転送をTCP/IPパケットの中に包み込み(カプセル化),IPネットワーク経由で送受信するためのプロトコルである。FC-SANと同様にブロック・レベルのデータ転送を行う(表1[拡大表示])。

 SCSIコマンドや転送データなどをTCP/IPパケットにカプセル化したり元に戻したりする処理は,専用のソフトウエアまたは専用ハードウエアで実行する。ソフトウエアで処理する場合,データ・アクセス量が多いと大きな負担になる場合がある。また,iSCSIの前提となるTCP/IPの処理自体も重くなることを考慮する必要がある。そのため,TCP/IP処理をハードウエアで実行する「TCP/IPオフロード・エンジン(TOE)」を組み込んだiSCSI用のホスト・バス・アダプタが増えてきている。

 iSCSIはコスト面で有利だが,FC-SANに置き換わるものではない。iSCSIとFC-SANは当面,相互に補完し合いながら普及していくと考えられる。iSCSIをはじめとするIP-SAN対応製品がまだ少ないことや,イーサネットよりファイバ・チャネルのほうがプロトコルの処理が軽く,大量のデータ転送に適しているからである。


吉岡 雄
日本ストレージ・テクノロジー マーケティング本部 シニアスペシャリスト