2006年のIT業界は近年稀に見る面白さがありました。1月から11月まで,毎月のように大きなトピックがありました。筆者の「記者の眼」の担当は今年はこれが最後なので,少し早いですが,2006年を振り返りつつ,まったく私的なトピックス・ベスト10を書かせていただきたいと思います。ランキングは「筆者の心に響いた」「印象に残った」「感動した」度合いが大きい順です。

1位 YouTubeの超ヒット
2位 任天堂のWii
3位 Core Solo/Duo,Core 2 Duo登場
4位 ミクシィなどSNSがブレーク
5位 Gmailが誰でも使えるように
6位 ホリエモン逮捕/ライブドア騒動
7位 モバイル・ノートの進化
8位 完成度の高いスマートフォンX01HT
9位 Winny経由の情報漏えいが多発
10位 百度など非米国発Web 2.0系サービスが 健闘

 私的ベスト10の1位は「YouTube」の超ヒットです。「GyaO」が話題だった1月頃,筆者はインターネットの掲示板に貼られていた動画を通してYouTubeを知り,0.1秒後にはその世界にのめり込みました。その後,YouTubeは人類史上最速のスピードで世界に普及し,10月には米グーグルが16億5000万ドル(1942億円)で買収するに至りました。YouTubeを「今年の発明」に選んだ米タイム誌11月20日号は「YouTubeは15年前にWeb 1.0が行った約束を実現した」と書いています。

 90年代中盤のインターネット勃興期,「インターネットで世界は一つになる」といったテクノ理想論がよく語られた記憶がありますが,現実には言語の壁などにより,そうはなりませんでした。しかし,動画によるコミュニケーションが可能なYouTubeによって,そのような姿に一歩近づいたのではないかと筆者は思います。YouTubeの動画に字幕を入れる“字幕職人”の方も活躍し,動画を通したコミュニケーションを助けています。

 YouTubeは広告メディアとしても注目を集めています。最近では任天堂が「Wii」のCMを投稿しています。

 そのWiiは2位です。Wiiは次世代ゲーム機競争の中で唯一,ブルーオーシャン(競争がない未開拓の市場)を開拓しようとする野心的なハードウエアだと感じます。ここでちょっと昔話ですが,筆者は80年代,富士通の「FM77AV」というパソコンに感動しました。8色表示が主流の当時,FM77AVは4096色表示を実現したからです。その後,65536色表示が可能なシャープの「X68000」が登場しましたが,静止画のグラフィックス面ではFM77AVを見たときほどの衝撃は受けませんでした。一方,X68000で初めて触れたマウスには大いに感動した記憶があります。Wiiや「プレイステーション3」,「Xbox 360」のことを考えていると,昔のこの体験を思い出します。

 3位は「Core Solo/Duo」と「Core 2 Duo」です。インテルの低消費電力CPUの登場に,筆者は久しぶりにCPUへの興味を取り戻しました。米PCマガジン誌9月5日号は「Why Microchips Matter (Again)」と題した記事を載せていました。

 Core Solo/Duo,Core 2 Duoは,モバイル向けノート・パソコンの大きな進化を促したと思います。2006年は「VAIO type G」や「Let'snote W5」といった高性能かつ長寿命バッテリーの傑作モバイル・ノート機に恵まれた年だと言えます。というわけでモバイル・ノートの進化が7位です。8位に入れたのもモバイル機器。台湾HTC製のスマートフォン「X01HT」は極めて完成度の高い製品でした。

 4位,5位,10位は「Web 2.0」の話題です。筆者は昨年11月頃,Web 2.0をテーマとした特集記事を書くために取材をしていました。その結果,「『Web 2.0』はバズワード。来年の今頃は消えてる」と確信し,周囲の人間にもそう言っていました。が,恥ずかしながらこの予測は見事にはずれ,Web 2.0という言葉はまだまだホットなキーワードです。

 ところで,日本にいるとWeb 2.0系のサービスは米国企業の圧勝という印象を受けますが,世界をよく見渡すとそうでもないようです。例えば中国では「百度」がグーグルと互角の勝負をしていますし,韓国のSNS「サイワールド」は今年,米国への進出を果たしました。6位にランクさせていただいたライブドア騒動の影響で,日本のITベンチャー企業のイメージは一時期かなり悪化しました。しかし「はてな」や「ミクシィ」のような注目企業も出現しています。これらの企業から世界へ発信できるサービスやソフトの登場を期待したいところです。

 世界へ発信できると言えば,「Winny」こそ日本発ファイル交換ソフトとして,世界のデファクトになり得る可能性を持っていたのではないでしょうか。作者の金子勇氏が逮捕されなければ,Winnyは今頃相当進化し,9位に入れた情報漏えい事故の多発なども起きなかったと思います。

 2006年は本当に“当たり年”でした。この反動で,2007年がネタ切れの年にならないことを祈っています。