放送中のテレビ番組を、放送とほぼ同時にインターネット経由で視聴できる「ネット同時再送信」の提供に向けた取り組みを、日本放送協会(NHK)が着々と進めている。ネット同時再送信では、テレビチューナーを備えないパソコンやスマートフォンでも、放送中の番組を視聴できる。
NHKは2015年10月~11月にかけて、約1万人を対象に総合テレビの放送内容をネット同時再送信する試験を実施した。この試験では、「平日の朝7、8時台にモバイル端末による利用が多い」「一部権利処理できなかった番組を除き、配信できた時間は配信対象時間の78%だった」――といった結果が得られた。また2015年4月以降、ニュースやスポーツなどの番組を数時間程度ネットで再送信する試験も不定期に実施しており、2016年も継続する予定だ(図1)。
NHKは、動画配信サービス「NHKオンデマンド」を2008年に開始している。こちらは放送済みの番組を好きなときに視聴できるVOD(ビデオ・オン・デマンド)型のサービスだ。2014年6月成立の改正放送法によって、これまでのVOD型サービスに加えて、NHKによる番組のネット同時再送信が可能となった。
民放事業者はVODには積極的な一方で、ネット同時再送信に対しては腰が重い(図2)。視聴率のような指標がないまま番組視聴がネットに流れると、放送側の視聴率が下がり広告収入が減る恐れがあるためだ。また、配信エリアの制限がなくなることで、在京キー局と地方局ですみ分けているビジネスモデルが崩れる可能性もある。そのため、現在民放で同時再送信に取り組んでいるのは、独立系地方局や広告収入に頼らない有料チャンネルが中心だ(図3)。
とはいえ、ゲームやSNSなど利用者の関心を奪う選択肢は多い。ネットを使った魅力的なサービスを放送事業者が提案できなければ、利用者はほかの選択肢を選ぶだけだろう。