情報収集衛星の概要、偵察衛星の歴史と、偵察衛星を考えるに当たって必要となる基礎知識を2回にわたって解説した。ここからは、日本政府が運用する偵察衛星「情報収集衛星(IGS:Information Gathering Satellite)」をどうすべきかを考えていく。

 本題に入る前に、現在の日本政府の態度がどうかを説明しておこう。今年の1月9日、安倍政権は新しい宇宙基本計画を決定した。

宇宙基本計画(2015年1月9日宇宙開発戦略本部決定)宇宙基本計画工程表:ともにpdf。

 宇宙基本計画というのは、日本の宇宙政策の基本方針をまとめた政府文書で、5年の中期計画を記載するものだが、今回は安倍首相の意向で、10年の中長期計画となった。

 新しい宇宙基本計画は、安全保障分野での宇宙利用を積極的に推進する姿勢を打ち出し、IGSは最大級に優遇されることとなった。工程表には、今後20年にわたって日本が実施する宇宙計画が具体的に記載されているが、IGSは光学衛星とレーダー衛星が各8機ずつ、合計16機を打ち上げることになっている。1998年の計画開始以来、投じられた予算の累積は1兆円を超えているが、今後毎年コンスタントに600億〜700億円を20年間にわたって使い続けるとすると、トータルでは2兆2000億〜4000億円ということになる。35年間でこの額なので、政府の計画としては過大なものではない(ちなみに東京〜名古屋のリニア新幹線建設費は9兆円と見積もられている)が、それでも日本最大の宇宙計画である。問題は、この計画のコストパフォーマンスだ。これだけの投資が本当に割に合うのかどうかということである。