先だってシアトルに出かけ、場末のホテルに宿泊していた時のこと。グーグルマップで周辺の地図を見ていると、「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の本部が数ブロック先にあるのを見つけた。しかも、オフィスとは別にビジターセンターがあると表示されている。

 ゲイツ財団と言えば、世界中で慈善活動を展開しているNPOで、言わずと知れた米マイクロソフト共同創設者ビル・ゲイツ氏が夫妻で設立したもの。彼らの資産の一部と、有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が寄付した資金が元になっている。

 財団の基金は429億ドル。2014年に直接の補助金の形でほかのNPOなどに提供した総額は39億ドル。何と1400人近いスタッフを雇う、世界でもまれに見る大規模な財団で、特に知られているのは、発展途上国での医療関連活動だ。

 時間もないので、訪問するのは次回にしようかと迷ったが、思い直してやっぱり訪ねてみることにした。メディアで名前や活動を見聞していても、実際にその本部の様子を自分の目で確かめておけば、何か参考になることがあるかもしれない。少なくとも、今後この財団の存在を近く感じられるようなきっかけになるだろう。インターネットから多様な情報が得られるが、リアルなものに触れれば、対象に対する今後の理解度が全く違ったものになるといつも感じる。

 そこで、朝の仕事の前に急いでそこへ向かった(写真1)。真面目な活動をしている財団だけに、きっとビジターセンターの展示はWebサイトに載っているような情報を分かりやすく解説したパネルが中心で、10分もあれば場所の雰囲気を確かめられるだろうと、高をくくって行ったのだった。

写真1●「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」ビジターセンターの受付
写真1●「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」ビジターセンターの受付
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 ところが、ビジターセンターに一歩足を踏み入れるや、想定が全く間違っていたことに気づいた。入口の横に据えられていたのは、発展途上国向けのシャワー兼トイレのユニットだったのだ。

 私は知らなかったのだが、ゲイツ財団は2011年から2回に渡って「Reinvent the Toilet(トイレを再考する)」というコンテストを行っており、これもその中で作られたもの。十分な上下水道施設がない場所で、コストも低く抑えながら衛生状態を向上させるために、世界の大学や企業、NPOなどが参加し、新しいトイレのアイデアをプロトタイプにまで作り上げ、一部は実際に現地でテストしているようだ。