サンフランシスコ対岸の町、オークランドが発祥の地である新興コーヒーチェーン米ブルーボトルコーヒーが、サンフランシスコのタルティーンベーカリーを買収するという。この2社は、サンフランシスコベイエリアがフードトレンドの新しい潮流を生み出すきっかけになった店だ。

 ブルーボトルとタルティーンベーカリーは、全てがデジタルなテクノロジー業界が牛耳る地元の環境の中で、びっくりするほどの手作り感を復活させて、人々に心のよりどころを提供してきたと言っても過言ではない。その2社が一緒になるとは、驚きである。

 ブルーボトルコーヒーは、今年2月に東京にも進出して話題を呼んでいるカフェである。オークランドのファーマーズマーケットからスタートし、今では全米に20店近くの店舗網を広げている。

 コーヒー豆や焙煎、挽き方、淹れ方全てにこだわりをもってコーヒーを一杯ずつ淹れるこの店のやり方は、日本のコーヒー店に学んだもの。普通のアメリカ人にとっては、びっくりするほど丁寧で非効率なカフェ経営の方法である。コーヒーの「第3の波(サードウエーブ・コーヒー)」のリーダー的存在だ。

 それでも、本物志向の食に興味を抱くテクノロジー業界の若者を中心に人気が高まり、みんな、がまん強く列を作って自分のコーヒーが入るのを待っている。創設者のジェームス・フリーマン氏は、既に日本でも有名人だろう

 もう一方のタルティーンベーカリーの前にも、いつも行列ができている。こちらは、サンフランシスコ市内のミッション地区でスタートし、フランス風の田舎パンなどが名物である。小麦粉にこだわり、ごまかしのない製法で練って寝かせて焼くパンは、本当においしい。私も時々行列に並ぶ。

 創設者のチャッド・ロバートソン氏はサーファーでもあり、どうも早朝の時間帯は海へ出かけているらしい。そのため、店に行列ができるのは、つまり主要なパンが焼き上がるのは夕方という、風変わりなベーカリーである。「夜のディナーに焼きたてのパンを。そして翌朝はトーストしてもおいしいです」と同店はうたっている。早朝ではなく夕方にパンが焼き上がるのをこうして言い逃れているのかと思っていたが、確かにその通り、焼きたてでもトーストしても最高のおいしさだ。

 恐らくそういう自分の趣味や生活を仕事と同じくらい大切にするというロバートソン氏の姿勢が、これまたテクノロジー系の若者の人気を得る一要素にもなっているだろう。店のウインドウに並ぶおいしそうなケーキ類は、パティシエであるロバートソン氏の妻の手になるものだ。完璧主義という点では、ブルーボトルコーヒーとタルティーンベーカリーには共通したものがたくさんある。