アップルファンへの朗報だが、スティーブ・ジョブズの新しい伝記『Becoming Steve Jobs』が、米国時間2015年3月24日に発売された。

 この本は、副題に「The Evolution of a Reckless Upstart into a Visionary Leader」とあり、直訳すると「向こう見ずな無礼者が、ビジョナリー・リーダーになるまで」となる。ジョブズその人が、どう変化を遂げていったのかがつぶさに語られ、その上、これまで誰も知らなかった彼の側面が描かれているという。

 だいたい表紙からして、「このジョブズの写真は初めて見るなあ」と思わせる。こんな表情をすることもあったのだと、じっくり目を凝らしてしまうほどだ。

「Becoming Steve Jobs」のWebサイト
「Becoming Steve Jobs」のWebサイト
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 面白いのは、この新しい伝記についてアップルの関係者がそろって賞賛を寄せていること。私もまだ読んでいないので正確なところはわからないが、心優しくソフトなジョブズの一面がていねいに表現されているらしい。これまで、「天才ではあるけれど、一緒に働くのはまっぴらごめんな嫌なヤツ」として描かれることの多かったジョブズ氏の定説を打ち破るものだそうだ。

 ところが、これも面白いことに関係者らは、これまで褒め讃えられてきたもう一つの伝記である『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン著)をこき下ろし始めているのである。今まで何も言っていなかったのに、急にコーラスのように不評が飛び出している。アップルのティム・クックCEOしかり、デザインのトップであるジョナサン・アイブしかり。他にもいる。

 周知のように、アイザックソン著の伝記は「オフィシャルバイオグラフィー」である。アップルが認めた伝記ということだ。アップルどころか、この場合はジョブズ自身がアイザックソンを指名して執筆が始まった。

 アルベルト・アインシュタインやベンジャミン・フランクリンの伝記の著者として知られるアイザックソンに白羽の矢を立てたジョブズには、それなりの考えがあったのだろう。万人に分かりやすく偉人の生涯と業績をつづることのできる、彼の力量を認めたのかもしれない。