失言は日本では政治家のトレードマークとも言えるが、シリコンバレーでも失言は起こる。先だっても、かなり公な場で“ある失言”が起こり大騒ぎになった。

 舞台は、テクノロジーメディアのTechCrunchが、業績ある企業に賞を与える「Crunchies Awards」の授賞式。Crunchies Awardsはサンフランシスコのシンフォニーホールを借り切って開催され、シリコンバレーのセレブが集まった。同賞は、いわばハリウッドのアカデミー授賞式のようなものをシリコンバレーにも確立したいと、TechCrunchが8年前に創設したものだ。

 式次第は、アカデミー賞にちょっと似ている。実際の受賞者が発表されるまでに、関係者が何人も出てきて業績を紹介する。そして今回、全編を通じてモデレーターのように登場したのが、スタンドアップコメディアンのT.J.ミラー氏だった。

 T.J.ミラー氏は、シリコンバレーではテレビ番組「シリコンバレー」の登場人物を演じていることでよく知られている。今回の役を担うことになったのも、そのためだろう。「シリコンバレー」では妙な投資家を演じているが、それは暗に米PayPalの共同創業者であり投資家でもあるピーター・ティール氏を模倣した人物像だろうと言われている。

 さて、このT.J.ミラー氏は、授賞式の途中で観客席の前方に座るある女性に目を付けた。女性が子犬を抱いていたことから、なぜ子犬が入場を許されたのか、というからかいの言葉から内容がどんどんエスカレートしたのだ。

 成り行きをかいつまんで言うと、彼はその女性のことを「クソ婆」に相当する英語で罵倒し、「アジア人は普通、米国でこれほど栄光を受けることはない」「何、このクソ婆はパロアルトに住んでいるのか?」とまで言い出した。その女性は、容姿から見るところアジア人とのハーフのようだ。

 もちろん、このことはそこに参加していた人々が「ひどい」とツイートし、メディアも書き立てた。「T.J.ミラーが、今後このイベントに呼ばれることは決してないだろう」と。失言、人種偏見、たがの外れたジョーク。彼への批判は多種のカテゴリーにわたっている。

 事を複雑にしているのは、この女性が米ウーバー(Uber)のトラヴィス・カラニックCEO(最高経営責任者)の彼女だったことだ。T.J.ミラー氏は当初、この事実を知らなかったとみられる。