ついに日本にも音楽聴き放題サービスの本命がやってきた。Apple Music。月980円を払えば、「聴きたい音楽」をいつでも聴ける。大事なのは、「聴きたい音楽」が、という点。昔々、どうしても聴きたい「板」を探してニューヨークの古レコード屋さんをはしごしたことがあったが、その宝探しが、手のひらのiPhoneでできるなんて! 本当に夢のような世界がついに実現した。これは、素晴らしいサービスだが、じっくりと探求するには何かとコツがいる。今日はその宝の山を味わい尽くすのにはずせないノウハウも、合わせていくつかご紹介しよう。

「幻の名盤」がワンタップで再生

 私は昔、「スイングジャーナル」というジャズ専門誌で編集・記者として働いていた。アーティストの動向を記事にし、新作の聴きどころを何とか読者に伝えようと、言葉を選びながら月の三分の一くらいは徹夜で記事を書いたものだ。月刊誌の他に「ジャズピアノ名盤百科」「幻の名盤読本」など、ジャズファンのためにさまざまな臨時増刊号を編集したものだ。そこに紹介された多くの名盤は普通のレコード店では手に入らず、東京に数店しかないジャズレコード専門店でたまに見つけられる、というのが当時の状況だった。

 「幻の…」は文字通り、プレスされたものがはけてしまえば、もう中古で出てくるものしか手に入れられず、コレクターの間で「時価」で取引されたものだ。そんな歴史的名演を納めた名盤の数々は、ぺーぺーの編集・記者に買えるはずもなく、再発版が登場したときに小遣いのありったけをつぎ込んで入手した。それでも、日ごろ、ネタにして毎日目にしている名盤のごく一部しか手に入れることはできず、あとは渋谷や新宿のジャズ喫茶に行ってリクエストしてはお茶を濁すしかなかった。

 時々取材で訪れたニューヨークでかび臭い古レコード屋さんを尋ね、1~2枚入手しては凱旋気分を味わったものだが、それでも、願いがかなったのはほしいものの何万分の一。第一、商品がない、しかもあったとしても高価すぎて手が出ない。たとえ買えそうな価格でも、収録曲は好みに合うものなのか? で、結局手ぶらで帰ったり…

 そんなアルバムでも、今や、Apple Musicで、ワンタップで手に入る。分かりやすい例をお見せしよう。これは、昔、スイングジャーナル刊の「幻の名盤読本」(1974年)。ぱらぱらとめくって「超幻の名盤・誌上展・12インチ編」。Art Pepperの「Modern Art」などが目に入る(図1)。

図1●私も編集作業に参加した「幻の名盤読本」(1974年刊)
図1●私も編集作業に参加した「幻の名盤読本」(1974年刊)
あ~~懐かしい。この時代は、こうして本から情報を入手して、レコード専門店に入り浸ってお目当てを探すという音楽生活だった。レコードを探し当てても、貴重なレコードは試聴なんてできないから、大金を払うのはまさに賭けだった。
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