高齢者や障害者を含む誰もが、必要な情報を得られるWebサイト作りが求められている。そのための指標となる新規格「JIS X 8341-3:2010」も、2010年8月に公示された。この規格に沿ってWebサイトを評価・検証し、対応を図ることで、Webサイトのアクセシビリティ(障害があるユーザーも障害がないユーザーと同様にWebを利用できること)を確保できる。  
 この規格の策定者らが集まって、JIS X 8341-3:2010の普及のために活動しているのが、情報通信アクセス協議会のウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)である。JISを利用する際に役立つ資料やガイドラインなどを豊富に整備している。この委員会の委員長で、JIS X 8341-3:2010の策定にも携わった、東京女子大学の渡辺隆行教授に、JISを用いたWebサイト評価の注意点をまとめてもらった。(編集部)

  

 ウェブの重要性は、日々増すばかりです。こうした中で、ウェブのアクセシビリティ(障害があるユーザーも障害がないユーザーと同様にWebを利用できること)がいっそう求められています。日経BPコンサルティングの調査のように、アクセシビリティへの対応の状況を調べる調査も各所で実施されています。この記事では、JIS X 8341-3:2010を用いたサイト評価の注意点について説明したいと思います。

国際標準との一致を図ったJIS X 8341-3:2010

 2010年8月に、JIS X 8341-3「高齢者・障害者等配慮設計指針 -情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス- 第3部:ウェブコンテンツ」の改正版(JIS X 8341-3:2010)が公示されました。『日経パソコン』2011年2月号の編集長インタビューや、2011年4月1日に公開されたPC Onlineの記事でも、「“誰でも使えるWeb”を日本で実現したい」 として、この規格の意義や普及に向けた課題をまとめています。

 ここでも述べたことですが、JIS X 8341-3:2010は、世界的なデファクトスタンダード(事実上の標準)であるW3CのWCAG 2.0 (Web Content Accessibility Guidelines 2.0)との一致が図られたという大きな特徴があります。この国際協調によって、グローバル企業は、日本のサイトと海外のサイトを同じアクセシビリティ基準を用いて制作できますし、サイトの制作者も、WCAG 2.0用の評価ツールを日本で使用したり日本で作ったツールを海外に輸出したりすることが容易になります。サイトの利用者にとっても、WCAG 2.0を意識して作られた支援技術を日本で用いることが容易になるでしょう。

 JIS X 8341-3:2010は、WCAG 2.0と同じ原則、ガイドライン、達成基準、アクセシビリティ達成等級の分類を持っています。サイトを試験する方法においては、WCAG 2.0以外に、欧州で活発に開発が行われているサイト評価のベンチマーキングやサイト評価手法の考え方も取り入れています。

 JISと言えば、JISマークを思い浮かべる方も多いでしょう。ではWebサイトにもJISマークをつけることができるかというと、JISには認証の厳密な規定があるために簡単に付けることはできません。(詳細は、情報通信アクセス協議会のウェブアクセシビリティ基盤委員会が公開している「ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2010 対応度表記ガイドライン」をご覧下さい。)

 しかし、サイトがJIS X 8341-3:2010に対応しているか、あるいはどの程度対応しているのかを試験し表記することは、制作・調達・納品・サイトのランキングなどにおいてきわめて重要な事柄です。JIS X 8341-3:2010の箇条8「試験方法」には、JIS X 8341-3:2010を用いてウェブコンテンツ(ウェブアプリケーションを含みます)を試験する方法について規定していますので、何らかの試験や評価を行おうとする方は必ずお読みください。

 箇条8では、ウェブページ単位で試験する場合とウェブページ一式(たいがいの場合ウェブサイトのことを指します)単位で試験する場合に分けて、適合試験の要件を規定しています。例えばウェブページ単位で試験を行う場合は、ページ全体に対して行うことが必要だと規定しています。ウェブページ一式単位で行う場合には、試験対象のページをどのように選択すべきかということを規定してあります。さらに、試験の手順や試験結果の表示方法も規定しています。

 ただ、JISの箇条8を読んだだけでは分かりにくい場合もあるでしょう。そこで、ウェブアクセシビリティ基盤委員会では「JIS X 8341-3:2010試験実施ガイドライン」を公開しています。また、現状ではJISで定める認証の規定を実施することは現実的に無理なので、「ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2010 対応度表記ガイドライン」も公開し、ウェブコンテンツがJIS X 8341-3:2010をどのように用いて制作され対応しているかを表記する方法について定めました。JIS X 8341-3:2010を用いてサイトの評価を行う方は、規格本文はもちろんのこと、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が公開している「JIS X 8341-3:2010試験実施ガイドライン」及び「ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2010 対応度表記ガイドライン」を必ず参照してください。