32nmに一番乗り!

 Intelは、今年頭から32nmプロセスで製造するCPUを発売できたことを派手に宣伝した。対するAMDは、いまだに45nmのままだ。でも、NVIDIAやAMD(旧ATI Technologies)のグラフィックスチップ(GPU)を製造するTSMCは、来年には28nmのGPUを出して、Intelを追い抜くという。CPUやGPUでは、このプロセスの数字がものすごく重要だ。だけど、32や45、28という、nmの前についている数字は、本当は何を意味しているのだろう。

その実態は当社比のラベルだったプロセス技術

 答えは簡単だ。実は、何も意味していない。「えっ」と思うかもしれないが、本当だ。少なくとも、違うメーカーのチップを比較するなら、それほど意味がない。例えば、Intelの45nmとAMDの45nmは、同じ性能や同じサイズではないし、Intelの32nmがTSMCの28nmに、87%(28÷32)劣っていることにならない。なぜなら、各半導体メーカーの、○○nmという数字は、同じ基準に立った数字ではなく、いずれも『当社比のラベル』にすぎないからだ。

 nmがチップの中で、極小の長さを表す単位であることは多くの人が知っている。ところが、どこの寸法が32nmなのかと聞かれれば、ほとんどの人が「うーん」と詰まってしまうだろう。でも、それは不思議ではない。なぜなら、32nmや45nmという寸法の部分は、実際のチップのどこにもないからだ。

 「そんなのサギじゃん」とあぜんとするかもしれない。でも、半導体メーカーの45nmプロセスの論文を読んでも、どこにも45nmなんて数字は出てこない。例えば、Intelの45nmプロセスなら、パフォーマンスの決め手となるゲート長は35nm、チップに積めるトランジスターの数の指標であるゲートピッチ(またはデバイスピッチ)は160nm。他の数字を見ても、どこにも45nmなんてない。それどころか、DRAMのプロセス技術と同じ方法で数えると、Intelの45nmは70~80nmプロセス相当になってしまう。

 「じゃあ、45とか32とかいう数字の根拠は?」と疑問を抱くのは当然だ。実は、CPUやGPUに使う高速ロジックプロセスでは、この数字に業界全体でのきちんとした基準はない。だから、半導体メーカーは勝手に数字を付けている。半導体メーカー自身も、これが根拠の薄い数字だって分かっているから、32nm“ノード(節目)”といった、あいまいな呼び方をしている。

 もちろん、完全に勝手な数字というわけではない。各メーカーが、それぞれ独自の根拠を持っている。例えば、Intelの場合は、ゲートピッチが約70%に縮むことが根拠となっている。Intelの45nmノードでは、ゲートピッチは160nm。それが32nmノードになると112.5nmへと短くなった。トランジスターの間隔が70%に短くなるのだから、45より70%小さい数字である32を名乗ることができるという論理だ。