著作権侵害、名誉棄損、児童ポルノといったインターネット上の不正・悪質コンテンツに対し、法令や複数の業界団体にまたがるガイドラインによって、規制する取り組みが広がっている。これまでは表現・言論の自由や通信の秘密に配慮し、各事業者の自主規制で対応していたが、ネット上の交流サイトや動画投稿サイトの普及、違法な音楽配信サイトやファイル共有ソフトなどの広がりに危機感を覚えた権利者や行政、業界団体、消費者団体などが、より強制力のある踏み込んだ対策を模索し始めている。

 一連の規制の端緒となったのが、2009年の改正著作権法の柱として盛り込まれた、いわゆる「ダウンロード違法化」。背景にあるのは、携帯電話向けの「着うた」を違法に配信するサイトの広がりだ。権利者に無断で市販のCD音源を配信するもので、無料であることや配信曲数の多さもあって、中高生を中心に利用が増加。配信曲数ベースでは、既に正規の配信を上回る規模といわれる。ダウンロード違法化はこうした状況を食い止めるための施策で、違法コンテンツと知りながらダウンロードする行為を規制した。中高生などへの啓発が主な目的のため、対象は音楽と映像に限り、刑事罰も設けていない。とはいえ、悪質なユーザーは、民事ベースで損害賠償請求を提起される可能性もある。

 著作権侵害対策では、ファイル共有ソフト「Winny」で違法コンテンツをアップロードしているユーザーに対し、削除を促す「啓発メール」の送信も始まった。政府の知的財産戦略本部では、プロバイダーに一歩踏み込んだ違法コンテンツ対策を求める法改正や、著作権保護技術を回避する機器の製造や輸入、販売を規制する法改正を検討中。さらに、違法コンテンツのアップロードをやめない悪質ユーザーに対し、3回の違反でインターネット接続回線を強制切断する「スリーストライク法」も議論されている。

 名誉棄損では、掲示板サイトに店舗を中傷する書き込みをした個人に名誉棄損罪が成立するという最高裁判例が初めて出た。これまで個人の書き込みは、テレビや新聞、雑誌などの報道記事より信頼性が低く責任は軽いとの考え方もあったが、ネット上の中傷発言が短時間に広がり、完全な削除も難しい現状を踏まえ、報道記事と同等の責任を求めたものだ。

 児童ポルノをめぐっては、プロバイダーや通信事業者、学識経験者などによる「安心ネットづくり促進協議会」が、一定の条件下で児童ポルノ画像・映像を自動的に遮断するのを容認する考えを2010年3月の作業部会で示している。

 一方で、行政による直接的な法規制には反発も強い。東京都議会が2010年2~3月の定例会で審議した青少年健全育成条例の改正案に、児童ポルノを描いた漫画、アニメに対する規制が盛り込まれた。しかし「非実在青少年」という耳慣れない言葉を使ったことや、条文のあいまいさなどから、「拡大解釈される余地があり、表現の自由の制限につながる恐れがある」といった強い批判を、漫画家や作家、出版社、プロバイダーなどの各業界団体が相次ぎ表明。都議会の主要会派は賛成の意向を示していたが、結局は継続審議に追い込まれている。
 

●ネット上の不正・悪質コンテンツをめぐる最近の主な規制の動き
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