音楽CDの代わりに、インターネットを通じた音楽配信サービスの「ID」を貸し出す公共図書館が増えている。利用者はIDとパスワードを受け取り、自宅のパソコンから自由に楽しめる。

 具体的には、ナクソス・ジャパンが運営する「ナクソス・ミュージック・ライブラリー(以下、NML)」の図書館向けサービスを使う。同社は2005年 11月から、個人向けに月額1890円の音楽配信サービスを提供中。クラシックを中心に民族音楽やジャズなど、約50万曲(2009年8月時点)をストリーミングで聴くことができる。このアクセス権を図書館が一括購入し、IDとパスワードを利用者に貸し出すのだ。図書館はIDとパスワードの書かれた紙を印刷して利用者に手渡すだけでよい。これを使って利用者はNMLのサイトにログインし、好きな音楽を楽しめる。本やCDと同様、IDには貸出期間が設けられ、1週間または2週間で有効期限が切れる。また、同じ時間にログインできる利用者は5人まで、などと図書館ごとに同時アクセス数が設定される。

図書館でIDとパスワードを受け取り、自宅からサイトにアクセス
図1 岐阜県や長野県、愛知県の一部の図書館は、ナクソス・ミュージック・ライブラリー用のIDとパスワードを利用者に手渡す。そのIDを使って自宅のパソコンからサイトにアクセスすれば、自由に音楽を聴ける。ただし利用期限があり、同時アクセス数も制限される
図1 岐阜県や長野県、愛知県の一部の図書館は、ナクソス・ミュージック・ライブラリー用のIDとパスワードを利用者に手渡す。そのIDを使って自宅のパソコンからサイトにアクセスすれば、自由に音楽を聴ける。ただし利用期限があり、同時アクセス数も制限される
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 このサービスを最初に取り入れたのは岐阜県の岐阜市立図書館。2008年2月に導入した。続いて同県の高山市図書館が2008年9月に採用。2009年 4月以降は、長野県の長野市立図書館と松川村図書館、愛知県の日進市立図書館、岐阜県の飛騨市図書館並びにハートピア安八図書館と、導入が広がっている。一方、東京都の千代田区立図書館は2009年4月、貸出期間を設けない方式でのNMLの提供を開始。同館が発行するWebサイト用のIDとパスワードさえあれば、いつもでNMLを利用できるようにした。

千代田区は貸出期間の制限なし
図2 東京都の千代田区立図書館の場合、一度図書館で利用者登録をしておけば、同館のWebサイトから直接ナクソス・ミュージック・ライブラリーにログインできる。利用期限はなく、いつでも楽しめる
図2 東京都の千代田区立図書館の場合、一度図書館で利用者登録をしておけば、同館のWebサイトから直接ナクソス・ミュージック・ライブラリーにログインできる。利用期限はなく、いつでも楽しめる

 岐阜市立図書館の図書館サービスグループリーダー中島克巳氏は、「印刷媒体と電子媒体を組み合わせたハイブリッド図書館を目指す足掛かりになると考えた。窓口業務が煩雑にならず、新たな機器の導入や保守が必要ないなどメリットが多いので導入した」と語る。図書館が音楽CDを扱う場合、CDの購入費以外にもさまざまなコストが掛かる。CDの紛失やケースの破損に対応したり、延滞者に返却の依頼をしたりと、「管理費や維持費、人件費がすごく掛かる。音楽配信を利用すれば、これらの費用を大きく削減できる」(千代田区立千代田図書館サービスプロデューサー梶川悦子氏)というのが、NMLの利点だ。図書館向けのNMLは、5アクセス分で年額10万5000円から契約できる。CD数十枚分の価格で約50万曲の音楽ライブラリーが手に入るわけだ。

 利用者にとっても、貸出枚数を気にせず自由に音楽を選択して聴けるのは魅力。同時アクセス数の制限はあるものの、返却の手間はない。クラシック中心で一般的な歌謡曲は含まれないが、「図書館の視聴覚資料として考えたとき、民間のレンタルCD店とは一線を画すサービスを提供すべき。その意味でNMLは、民族音楽など手に入りにくい音楽が含まれるなど質が高い」(梶川氏)と、資料的価値は評価されている。

2010年4月からは15万1200円となる