今まで、パソコン上のワープロソフトなどで読み方の分からない漢字を入力するツールとして、漢和辞典を利用する方法があることを紹介した。では、どんな漢和辞典でも漢字入力ツールとして役に立つのだろうか。また、漢和辞典を入力ツールとして用いる際にはどんなところに注意しないといけないのだろうか。今回は、漢字入力ツールの面から見た漢和辞典の世界をもう少し深く探ってみよう。

漢和辞典、その今と昔

 「漢字を入力するツールとして漢和辞典を利用する」とは言っても、わざわざそのために新たに漢和辞典を購入しようとする人はまずいない。たいていは、学生時代に使っていた漢和辞典を本棚から引っ張り出すか、あるいは、子どもに買い与えた漢和辞典を借りることとなる。子どもの辞典であれば、比較的最近のものかも知れないが、自分が学生時代に使っていた辞典となると、10年20年あるいはそれ以上、昔に発行された辞典となるだろう。

 漢字の意味そのものがここ10年20年でガラリと変わったわけではないので、漢和辞典に載っている漢字1文字1文字の解説内容自体はそんなに大きく変わっていない。しかし、漢字入力ツールとしての面から見ると、漢和辞典の利用価値は大きく変わっている。

 その一例として、わたしの手元にある漢和辞典の中から1978年発行の『学研漢和大字典』とその改訂版にあたる2005年発行の『学研新漢和大字典』を比べてみた。どちらもA5判で、厚さが7センチを超える*1。1冊本としてはかなりの大部の漢和辞典だ。

*1 厚さや重さはほとんど同じだが、旧版が1740ページなのに対して、新版は2392ページと、ページ数は4割近く増えている。製紙技術の進化によって、より薄くて丈夫な紙が製作されるようになったお陰で、私たちは同じ大きさでもより内容の濃い辞典を入手することができる

 まず、親字として掲載されている漢字の数だが、旧版『学研漢和大字典』が1万1000字なのに対して、新版の『学研新漢和大字典』の方は1万9700字。旧版に掲載されていた1万1000字という数も当時としてはかなり多い部類に入るが、新版では8700字も増えて、2万字に近い漢字が親字として掲載されている。同じ漢和辞典の旧版が発行された1978年と新版が発行された2005年のおよそ30年の間にそんなに収録漢字数を増やさないといけない理由があったのだろうか。新語や学術用語などでよく使われるようになった漢字もあるにはあるだろうが、8700字も増えた理由はそれだけでは理解できないそうにない。

 もう1つ、新旧両辞典の中身を眺めてすぐに気付くのが、旧版には親字の真下に当用漢字を表す「当」や、教育漢字をあらわす「教」といった記号だけが記載されているのに対して、新版ではそれらの記号に加えて、「(1)1601」や「(U)4E9C」といった番号の記載が見られる点だ*2 *3。「(1)1601」はこの漢字がJIS漢字の第1水準で、その区点番号が1601であることを、「(U)4E9C」はこの漢字のUnicodeが4E9Cであることをあらわしている。

*2 戦後間もない1946年に内閣から告示された「当用漢字表」 に掲載された漢字1850字を指す。漢字は数が多いため、学習が困難で、それが引いては民主化の妨げともなっていたとする指摘に基づき、公文書や新聞などで使われる漢字の使用を大幅に制限した。その後、当用漢字の制限に対する反発もあり、漢字数を1945字に増やし、制限色を弱めた「常用漢字」が1981年に告示されて、今に至っている

*3 小学校6年間のうちに学習することが文部科学省によって定められている漢字の総称。『小学校学習指導要領』の付録の「学年別漢字配当表」に、1006字の漢字が1年~6年の学年別に学習すべき漢字として定められている

 旧版『学研漢和大字典』には「(1)1601」や「(U)4E9C」といった文字コードの記載がなく、新版『学研新漢和大字典』にある理由は何だろうか。