高等学校の普通教科「情報」の大学入試への導入をテーマにした「情報入試フォーラム2013」が、2013年3月3日に開催された。主催は、情報入試研究会。教科「情報」における学習の成果を適切に評価する場の必要性を訴え、大学入試への採用を提言している団体だ。フォーラムでは、情報入試研究会が2013年5月に開催予定の模擬試験の概要紹介や、試作問題の解説が行われた。既に「情報」を入学試験に採用している大学や、今後採用予定の大学による発表もあった。

 教科「情報」は、高等学校の必履修教科であるにもかかわらず、授業が十分に実施されていない、パソコンの操作スキルの指導に終始して本来の内容が扱われていない、といった問題が指摘されている。その原因の一つに挙げられるのが、大学入試への採用が進んでいないこと。そこで2012年1月、この問題に関心を寄せる識者らが集まり、情報入試研究会が発足した。これまで、試作入試問題の公開と模擬試験の実施を目標に活動を続けてきた。

 代表を務める早稲田大学理工学術院基幹理工学部の筧捷彦教授は、フォーラムの冒頭で「ほぼ1年前に情報入試研究会を立ち上げ、模擬試験を開催するところまできた。今年は小規模で実施するが、今後も継続していくとなると、金銭面や組織面でさまざまな準備が必要だ。現在は、まさに走りながらこれらに取り組んでいる」と話した。

 続いて、慶應義塾大学 環境情報学部の植原啓介准教授が、第1回の模擬試験の概要を説明した。2013年5月18日土曜日に、東京地区、神奈川地区、中部地区、関西地区の4カ所で実施する。定員は、神奈川が150人、それ以外は50人。教員や学生以外の人も受験できる。申し込みは、情報入試研究会のWebサイトで受け付ける。結果は、パスワード付きのWebページで見られるようにする。

 模擬試験の問題や解答などは、2013年秋に公開する予定だ。模擬試験から問題の公開までに半年の期間を設ける理由は、高校や予備校などが、その問題を使って独自に模擬試験を実施できるようにするため。模擬試験の問題をAO入試の受験生に受験させ、その結果を合否判定の参考にしたい、といった声も寄せられているという。

 模擬試験に先立ち、情報入試研究会では試作入試問題を公開した。筑波大学大学院ビジネス科学研究科の久野靖教授が、試作問題の作成方針や出題形式、個々の問題の狙いについて解説した。模擬試験の対象としたのは、学習指導要領に基づき、検定済み教科書に標準的に掲載されている範囲や内容。回答形式としては、多選択肢式と自由記述式を併用している。また知識を問う問題よりも、思考力を問う問題の比率を高めたという。

「情報」を入試に採用する大学からの報告も

 フォーラムの後半では、「情報」を入試に採り入れた大学による報告があった。最初に演台に立ったのは、10年ほど前から入試に教科「情報」を採用してきた愛知教育大学 情報教育講座の竹田尚彦教授。現代学芸課程の「情報科学コース」の後期試験で「情報」を採り入れており、例年50~100人が受験してきた。「情報」の試験は優秀な学生ほど正答率が高く、試験として優れたものになっているという。同コースの卒業生は地元の企業や大企業から評価されており、就職率が高いことなども紹介した。大学の試験科目削減の方針により、2013年度からは「情報」が入試から姿を消したが、「『情報』入試はやってきて良かった。情報科学コースの存在感を示すことができた」と10年間を総括した。

 2013年度から新たに「情報」を導入したのが、明治大学情報コミュニケーション学部だ(関連記事)。文系、理系の枠にとらわれない学際的な学部で、「多様な背景を持った学生を集めたい」(同学部の山崎浩二准教授)という理由から、「情報」を用いた入試方式(「B方式」)を新たに設けた。B方式では「情報」は選択制でなく、受験が必須。「『情報』を受験してほしい、この教科が得意な学生が必要だ、という思いを伝えたかった。だから選択制にはしなかった」(山崎氏)。

 20名の募集定員に対して、集まった志願者は81名。「欲を言えば3ケタに載せたかった」(山崎氏)というが、試験の結果は出題者の想定よりも良かったという。最終的に、25名が合格した。従来も理数系の科目を受験して入学した学生は成績が良く、論文の質も高い傾向にあるといい、こうした学生が周囲に良い影響を及ぼすことに期待を示した。

 慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)に拠点を置く総合政策学部と環境情報学部は、2016年度入試から「情報」の導入を予定する。環境情報学部の村井純学部長は、「20年間学生を見てきて、数学の力が落ちていると感じている。科学や数学に強くなければ、地球的規模で問題を見つけ、解決することはできない」と話す。教科「情報」が学習指導要領において“問題の発見と解決”に直接言及している必修教科であり、これからのグローバル社会における問題を解決していくために「情報」の学習範囲は必要不可欠であることなどから、導入を決めた。

 両学部では新たに、「情報」と「小論文」による入試方式を設ける。村井氏は「情報」がさまざまな学問分野に隣接している教科であることに触れ、出題範囲を必要以上に気にせず、他分野に隣接した部分の学力を見られる問題も用意したいとの考えを示した。2013年から2015年にかけて毎年模擬試験を実施予定で「高校生や予備校の先生方などから広く意見を聞きたい」(村井氏)という。