ソフトバンクは2012年10月1日、株式交換によるイー・アクセスの子会社化を発表した。ソフトバンク子会社のウィルコムを加えると、ユーザーの契約数は業界2位の規模となる。経営統合により、ソフトバンクがサービス上でイー・アクセスのLTE(long term evolution)網を利用可能とすることでiPhone 5で競合するKDDIに対抗する。

 ソフトバンクとイー・アクセス(イー・モバイル)に子会社のウィルコムを加えると、8月末の契約数は3911万人。同時期のNTTドコモの契約数は6063万人でKDDIの契約数は3589万人。孫社長はソフトバンクグループが業界2位の規模となるとアピールした。ソフトバンクはイー・アクセスを1株5万2000円と評価し、買収総額は約1800億円となる。「イー・モバイル」ブランドで提供するイー・アクセスのデータ通信サービスは従来通り継続する。

 現状でソフトバンクのiPhone 5は900MHz帯と2.1GHz帯の基地局に対応する。ただ、900MHz帯は整備が不十分で、2.1GHz帯はLTEと3G(第3世代携帯電話)の新旧方式が共存しているために都市部などでつながりにくい点が弱点と言われていた。イー・アクセスとの統合により1.7GHz帯のLTE網が利用可能となれば、通信の改善が期待できる。ただ、イー・アクセスのLTE網とソフトバンクの音声回線を切り替える仕組みを実装するなどの準備があり、iPhone 5の1.7GHz対応は来春になる予定だ。

 従来から統合の話し合いはあったものの「iPhone 5のテザリング対応が経営統合をさらに早めた」(ソフトバンクの孫正義社長)。テザリングはiPhone 5などのスマートフォンを経由して、パソコンやほかの携帯機器をインターネットに接続する機能。iPhone 5の発売時、KDDIがテザリングへ対応する一方で、ソフトバンクが対応していないことにユーザーから疑問の声が上がった。ソフトバンクは即座にテザリング対応を発表したものの、孫社長には不安もあったという。テザリングを開放すると通信が混雑し、iPhone以外の既存ユーザーに影響を与える恐れもあったからである。こうした事態を打開し、抜本的な改善を実現するための策がイー・アクセスの買収だった。「ソフトバンクが強烈なラブコールをした」(孫社長)という。

 両社はADSLや携帯事業への参入などで競争しながら、データ通信で協業するなど「同じ方向性で情報革命に携わってきた」(孫社長)。イー・アクセスは、孫社長からの提案を受け、「ソフトバンクはDNAが似ている。ゼロからリスクをもって高い志に挑戦するという点で共通している。自分たちで成長するよりはるかに高い価値を生み出すのではないか」(イー・アクセスの千本倖生会長)と判断し、経営統合に踏み切った。

 2013年1月15日に決定していたiPhone 5のテザリング開始は、2012年12月15日に前倒しする。「戦国時代でも援軍が来ると分かれば食料がなくても頑張れる。今回の統合で余裕ができた。もちろん実際にネットワークでも余裕があるため前倒しを決めた」(孫社長)と、統合のきっかけとなったテザリングについてKDDIへの対抗姿勢を表現した。このほか、iPhone 5において「月の通信料が1.2GBを超過した際は速度制限する場合がある」という規制を取りやめ、「3日で1GBを超過した際は規制する場合がある」と改めた。