「このプログラムを完成させて下さい。できない人は手を挙げて知らせて下さい――」。ディスプレイとにらめっこで課題に挑むのは、全国から集まった高校教諭。2012年7月30日から2日間にわたって東京大学で開催された、プログラミング言語「Ruby」の講義の一コマだ。東京大学で実際に開講されている講義を、高校教諭向けに特別に実施。情報科学の基礎を改めて学んだり、大学の情報教育を体感したりすることで、高校での授業を深めることを狙う。

 講義を主催したのは、高等学校の必修科目「情報」の教諭らが集まる東京都高等学校情報教育研究会(都高情研)。全国高等学校情報研究会と情報処理学会との共催という形で今回の講義を実現し、全国から教諭が集まった。大学教授によるこうした講義の開催は、初の取り組みという。

 講義の発案は、情報処理学会のメンバーが組織するSSR(Society's Social Responsibility)というグループ。同学会の「会員の力を社会につなげる」ことをテーマに2012年に発足した研究グループで、まず「学校の先生方のために何かできることはないか、と話し合った」(筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 久野靖教授)。東京大学大学院情報理工学系研究科の萩谷昌己教授から、自身が東京大学で開講しているRubyの講義を実施してはどうかとの提案があり、今回の取り組みが実現した。

 2003年に教科「情報」が必修化された高等学校では、数学や理科の教諭が短期間で研修を受け、「情報」の授業を担当しているケースが多い。情報科学をきちんと学んだ経験のない教諭も少なくなく、「教諭によって得意分野、不得意分野がある」(都高情研で研修を担当する、東京都立町田高等学校の小原格主幹教諭)。このため、「大学で実施している体系的な講義を体験できることの意義は大きい」(早稲田大学理工学術院 基礎理工学部情報理工学科 筧捷彦教授)。

 講義では、「東京大学で実施している講義の1学期ぶん程度の内容を、2日間で扱う」(萩谷氏)。プログラミングの経験はあってもRubyは初めてという教諭も多く、みな真剣に課題に取り組んでいた。ある都立高校の教諭は「こうやって講義を受けると、生徒の気持ちがよく分かる」と感想を述べる。「ちょっとしたパソコンの操作につまずいただけだが、それが原因で作業が遅れ、追いつくのが大変になったりする。これは、情報という教科に特有のものだ」(同教諭)。

 千葉県の私立高校で教科「情報」を担当する教諭は「プログラミングを授業でも取り入れたい」と考えて、今回の講義に参加したという。「身の回りにあるシステムがどうできているのか、ということを生徒に分かってほしい。プログラミングを学ぶことで、すべてのシステムは1行1行のプログラムからできていることが理解できる」と考えているという。