対局の席につき、鋭い眼光を放つ米長邦雄永世棋聖。コンピューターの癖を十分研究して電王戦に臨んだ(撮影:稲垣 純也、以下同)
対局の席につき、鋭い眼光を放つ米長邦雄永世棋聖。コンピューターの癖を十分研究して電王戦に臨んだ(撮影:稲垣 純也、以下同)
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後手・米長永世棋聖の指しまわしは“常識破りの一手”から始まった
後手・米長永世棋聖の指しまわしは“常識破りの一手”から始まった
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 将棋の元名人で永世棋聖の米長邦雄氏(日本将棋連盟会長)と、コンピューター将棋ソフトの「ボンクラーズ」が対戦する「第1回電王戦」(日本将棋連盟、ドワンゴ、中央公論新社主催)が1月14日開催され、ボンクラーズが113手で米長永世棋聖を下した。公式対局で男性棋士がコンピューターソフトに敗れるのは初めてのことだ。

 中盤までは米長永世棋聖が鉄壁の守りを築き優勢に駒を進めたが、後半、1つのミスを突いてボンクラーズが猛攻を開始。優勢に回ると、終盤はコンピューター特有の完璧な指しまわしであっという間に相手を追い込んだ。ミスに食らいついて攻めたてるボンクラーズの棋風を米長永世棋聖は「大山康晴と対戦した感じだ」とかつての名棋士の名を挙げて評し、「ミスをしたのは、私が弱かったからだ」と潔く負けを認めた。

 コンピューター将棋はこの10年で急激に強くなり、実力はもはやプロレベルになったと言っていい。そうした背景もあり、近年ではソフトとプロ棋士の公式対局が何度か実現している。2007年には、指し手を幅広く読み込む将棋ソフト「ボナンザ」が渡辺明竜王に挑戦したが敗退。しかし2010年には、複数ソフトの合議システムを採用した「あから2010」が清水市代女流王将を破り、話題になった。

 今回の電王戦に登場した「ボンクラーズ」は技術者・伊藤英紀氏が開発した将棋ソフト。2011年5月に開催された第21回世界コンピュータ将棋選手権でも優勝し、現在最強のソフトと言われている。

 とぼけたネーミングだが、これは強豪ソフトとして知られる「ボナンザ」を応用し、複数のコンピューターを結合する「クラスター」技術で強化されたことから付けられたもの。今回の対局では富士通のブレードサーバー6台をクラスタリングし、1秒間に1800万手を読むという驚異のパワーで米長永世棋聖を圧倒した。