高等教育・学術研究機関におけるICT(情報通信技術)利活用を推進する大学ICT推進協議会(AXIES)は2011年12月7日、福岡国際会議場で2011年度の年次大会を開幕した。会期は9日までの3日間。情報教育やeラーニング、オープンソース技術、コンテンツ共有、ソフトウエアライセンス、セキュリティなどをテーマに多数のセッションが行われているほか、ICTを活用して教育や研究、経営を支援する商品やサービスも展示されている。

大学間でコンテンツを共有・流通

 7日に行われた「大学連携から見た学術・教育コンテンツの開発・蓄積・共有再利用」と題するセッションでは、学術・教育コンテンツの新たな共有・流通のあり方が検討された。

 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授の逸村裕氏は、大学などが提供する「機関リポジトリ」が、コンテンツ共有・流通のインフラとなる可能性を指摘した。機関リポジトリとは、大学や研究機関が作成したデジタル資料を集めて保存・公開するアーカイブシステム。国内では現在211機関が設置する。インターネットを通じて学術情報を無料で閲覧可能にする「オープンアクセス運動」の一環として、学術論文などを蓄積している。論文だけでなく、講義ノートなどの教材を収録するケースもあり、論文に比べて数は少ないものの、試験前に講義ノートを閲覧して勉強するなど学生には人気が高いという。また、検索エンジンからも論文や教材を発見できるので、幅広く利用されている。逸村氏は、研究者データベースやシラバスなどに機関リポジトリへのリンクを張り、さらに機関リポジトリの対象も個別ではなく日本全体に広げることで、情報の流通範囲をより広げられると期待を寄せる。

 また、香川大学図書館・情報機構総合情報センター教授で、e-Knowledgeコンソーシアム四国・事務局長の林敏浩氏は、同コンソーシアムに参加する四国の8大学による「四国学」の取り組みを紹介した。四国学は、四国の文芸、歴史、社会、自然に関する科目。各大学がeラーニングコンテンツを作成し、オムニバス講義として提供している。例えば、讃岐うどんや四国八十八カ所などに関する研究や講義を収録。初回のガイダンスや試験のみ対面で行うなどいくつかの形式があり、eラーニングを通じて単位も取得できる。連携する大学間で単位互換制度も設けており、他大学の授業をライブ中継やeラーニングによって履修し、単位まで取得できるのは全国的に見ても珍しいという。

iPhone/iPadで後からでも受講できる

 一方、「これからの大学院の全学共通情報教育と教育情報化環境」と題するセッションでは、大学院における文系/理系の枠を越えた学習・研究のあり方が説かれるとともに、学習・研究のベースとなる情報教育やその環境づくりの必要性が語られた。例えば人文社会分野のデータ分析においても、クラウドコンピューティング技術が有効になる場合があるなど、文系/理系を問わず、計算科学系の情報教育が求められることが示された。

 こうした「文理融合」を推進するのが、京都大学情報学研究科情報教育推進センター。セッションでは、同センターで実践されている、iPhone/iPod touch/iPadなどを使った授業の事例も紹介された。同センターでは2010年から、講義のスライドと映像を同期して収録し、iPhoneなどで視聴可能にする「iTouch Lecture」システムを開発・運用中。同センターでiPod touchを160台、iPadを20台を用意して学生に貸し出しているほか、自分で所有する学生は「App Store」からアプリを入手可能。受講できなかった講義を後から受講したり、復習に活用したりできるようにしている。同センターの講義に関しては全て収録して公開しており、他学部の情報系科目でもテスト導入しているという。

約40社が最新の製品・サービスを展示

 会場には、高等教育・学術研究機関向けの製品・サービスを提供するメーカーなど約40の企業・組織が最新のソリューションを紹介する展示ブースも設けられている。

 日本マイクロソフトのブースでは、タイムインターメディアが提供する新サービス「Cup moodle(カップムードル)」が初披露された。これは、オープンソースの教育支援ツール「Moodle」を、マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」上に構築した新サービス。Moodleは、Webブラウザーを通じて講義、学習管理、レポート、アンケート、小テスト、ディスカッションなど多彩な機能が利用できる教育支援ツールで、国内の大学でも採用例は多い。タイムインターメディアは、これをWindows Azure上に移植して、学内にサーバー環境を構築することなく、簡単に導入できるようにした。使用量に応じて課金するクラウドサービスであることから、学生数の増減に柔軟に対応できる点もメリットという。

 iPhone/iPadやAndroid端末などで利用できる学校情報アプリ「Blackboard Mobile Central」をデモしていたのは、アシストマイクロ。大学などが学内の情報を配信するアプリで、大学ごとの専用アプリを通じてニュースや講義情報のほか、キャンパスの案内地図などを表示できる。米ブラックボードが提供する製品を、アシストマイクロが7月に国内販売開始した。米国ではスタンフォード大学やデューク大学など多数の導入事例があり、大学が独自にアプリを開発するよりも、短期間・低コストで導入できるのが利点。アプリは学生のみならず、一般に公開されるので、受験を考える高校生などに大学の様子を伝えるなど、大学の広報活動にも生かせるとしている。同社は、学習支援アプリの「Blackboard Mobile Learn」も販売しており、スマートフォンやタブレット端末などを活用した新しいキャンパスライフを提案する。

 またインフォテリアは、教材などのコンテンツを作成・配信・閲覧できるサービス「Handbook」を展示。iPadで講義動画や教材を閲覧したり、テストを実施したりするデモを披露した。同社は12月6日、九州大学のモバイル教材配信基盤としてHandbookが採用されたことを発表したばかり。九州大学では同製品を、モバイル環境でのeラーニングに活用するほか、学生が課題の発見やディスカッション、プレゼンテーションなどを能動的に行う「アクティブラーニング」において活用するという。