日本音楽著作権協会(JASRAC)は2011年5月24日、2010年度(2010年4月~2011年3月)の音楽著作権使用料の徴収実績を発表した。私的録音録画補償金のJASRAC分配分を含む総額は対前年度比2.6%減の1065億円で、3年連続の減少となった。音楽CDの市場縮小に加え、ゲームソフトやパチンコ機器での楽曲利用が減少したこと、CATV(ケーブルテレビ)やパソコン向けの音楽配信で2010年度分の使用料の入金が2011年度にずれたことなどが原因。東日本大震災に伴う影響額は、2011年度に20億~30億円を見込む。

 主な種目別に見ると、音楽CDの「オーディオディスク」は対前年度比8.8%減の154億円。DVDやゲームソフト、パチンコ機器などを含む「ビデオグラム」は同4.8%減の164億円。「演奏等」も同1.8%減の189億円。一方で「放送等」は275億円で、同1.3%の増加となった。

 インターネット経由での音楽配信を含む「インタラクティブ配信」は、同3.2%減の91億円。金額ベースでは3億円の減少となっている。内訳では、「着メロ・着うた・着ムービー」が市場の縮小に伴い同15.5%減の19億円となっているほか、パソコン向け音楽配信や着うたフルを含む「音楽配信(ダウンロード)」も同8.4%減の46億円にとどまった。一方「動画等配信(ストリーム)」は、動画共有サイトとの許諾契約が増加していることを受け、同7.7%増の8億2000万円に拡大。「動画等配信(ダウンロード)」も同157.3%の大幅増となり4億8000万円であった。「音楽配信(ストリーム)」は、インターネットラジオの市場拡大に伴い、同21.4%増の7億4000万円となっている。

 私的録音補償金のJASRAC分配分は同31.8%減の9300万円となり、補償金制度が開始された直後の1994~95年度以来となる1億円割れとなった。補償金の対象機器であるMDやDATなどの利用が縮小傾向にあることが背景。JASRACなど権利者団体は、現在主流の携帯音楽プレーヤーに対する補償金賦課を主張しているが、文化審議会での議論でメーカー側と意見が対立し、対象機器の拡大が見送られた経緯がある。「私的録音録画補償金制度の見直し、著作権の保護期間の延長、戦時加算義務の解消という3つの継続案件は、引き続き要望を出していく」(JASRAC理事長の菅原瑞夫氏)としている。

 なお、私的録音補償金は対象機器のメーカーなどから私的録音補償金管理協会(sarah)が徴収し、JASRAC、日本レコード協会(RIAJ)、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)に分配している。JASRACに対する分配率は36%である。また、私的録画補償金のJASRAC分配分は、2009年にブルーレイディスクが対象機器に追加されたことにより、同33.2%増の3億1000万円となっている。

「震災の影響あっても、1000億円は下回らないようにしたい」

 JASRACは、音楽CDなどの市場縮小に伴う著作権使用料の減収傾向が今後も続くとみており、2011年度の徴収総額目標を1030億円としている。ただし、東日本大震災に伴う著作権使用料の減収見込みはこの中に含まれていない。「震災は年度末であったので2010年度にはほとんど影響していない。しかし徴収や分配は実際の音楽著作物の利用より遅れて行うため、2011年度から2012年度にかけて影響が出ることが考えられる。著作権使用料が20億~30億円減少する可能性があると考えている」(菅原理事長)。

 減少額の内訳は、被災して営業できなくなった店舗・企業などからの徴収停止や被災地の飲食店やカラオケボックスなどに対する著作権使用料の免除措置が「上半期に10億円弱、通期で10数億円」(菅原理事長)。これらに加え、テレビ/ラジオCM、ライブ、新曲発売などの自粛が広がり音楽著作物の利用が減少することを懸念しているとする。「震災の影響を加味しても、1000億円の大台は割らないようにしたい。また経費節減などにより、信託者への配分額の減少幅を抑制するよう努めたい」(菅原理事長)としている。

 JASRACは震災復興に向けた免除措置を複数実施している。例えば3月17日、岩手・宮城・福島各県の全域と青森・茨城・千葉の各県の一部で、年間包括許諾契約を結んでいる飲食店、ホテル・旅館、カラオケボックス、CDレンタル店、フィットネスクラブなどを対象に、2011年4~9月の著作権使用料を免除することを発表済み。また、被災者支援や被災地復興のために開催するチャリティーコンサートで所定の条件を満たすものについて、音楽著作物の利用を無償許諾する。このほか4月8日には、JASRAC管理楽曲のうち信託者が申し出た楽曲と利用目的について、著作権使用料を寄付金・復興支援金へ拠出するという支援制度を始めている。JASRAC 会長の都倉俊一氏は、自身が作曲したピンクレディーの「ペッパー警部」「サウスポー」のうち通信カラオケの使用料について、同制度に基づき2011年4月からの1年分を寄付するとしている。

 震災の影響は、著作権使用料の徴収業務以外にも出ているという。JASRACは6月上旬に開催される著作権協会国際連合(CISAC)の総会において、戦時加算義務の廃止に向けた具体的な提案を準備していたが、「震災で準備が難しくなり延期せざるを得なくなった」(都倉会長)という。戦時加算義務の廃止に向けた今後の取り組みについては、「今回のCISAC総会後に改めて目標とスケジュールを設定したい」(都倉会長)としている。