文化庁長官の諮問機関で著作権法などの制度について検討する文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会の2010年度第9回会合が、2010年9月7日に開催された。家庭用ゲーム機のソフトウエアの不正コピーに使われる「マジコン」と呼ばれる機器の取り締まりを強化するため、技術的保護手段の回避規制の強化について検討を開始。同小委の傘下にワーキングチームを設置して集中討議を行うことを決めた。11月末までに規制案の詳細をまとめ、早ければ2011年の通常国会での改正著作権法成立、2012年1月の施行を目指す。

 一般に家庭用ゲーム機は、不正コピーされたゲームソフトが起動しないようプロテクトを設けている。マジコンなどの機器は、こうしたプロテクトを解除して、インターネットなどから入手したゲームソフトの不正コピー版を起動可能にする機器である。マジコンなどの機器を使用すると、ほとんどのゲームソフトの不正コピー版を無料で入手して遊べるため、正規版のゲームソフトの販売に影響を及ぼしているといわれる。今回検討が始まった技術的保護手段の回避規制は、マジコンや不正コピーされたソフトなどの流通を規制するためのものだ。

 技術的保護手段は、コンテンツを暗号化するなどしてコンテンツを容易に閲覧できなくする「アクセスコントロール」と、コンテンツの複製に制限を設ける「コピーコントロール」に分けられる。現行の著作権法では、コピーコントロールの回避を伴う複製などに関して、刑事罰付きで禁止している。また不正競争防止法によって、アクセスコントロール、コピーコントロールを回避する機器の販売などを禁じているが、刑事罰は設けていない。

 こうした現状の規制に対し、(1)差し止め請求や損害賠償請求を起こそうとしても、ペーパーカンパニーで所在が不明だったり、会社を閉鎖して別の会社を立ち上げたりして請求を逃れようとする(2)規制対象の機器が技術的保護手段の回避機能のみを備えたものに限られるという、いわゆる“のみ要件”から逃れるため、音楽・映像の再生機能を名目上加えたり、機器販売時には技術的保護手段の回避機能を搭載せず、別途インターネット上でファームウエアを配布したりしている(3)アクセスコントロールはコピー防止目的にも使われているが、アクセスコントロールが破られることで、本来できないはずの不正コピーが大量に出回ってしまう(4)アクセスコントロールの回避行為そのものが規制対象外のため、回避行為を助長する雑誌などが多数市販されている――といった課題がある。

回避機器の製造・頒布や回避行為を規制対象に

 回避規制の強化については、2010年2~5月に開催された知的財産戦略本部 コンテンツ強化専門調査会で既に検討されており、(1)アクセスコントロール回避機器の製造、回避サービスの提供を新たに規制対象とする(2)“のみ要件”を見直し、対象機器を柔軟に解釈できるようにする(3)回避機器の頒布などに対し刑事罰を新設する(4)輸入品の陸揚げ時に税関により差し止められるよう、回避機器を水際規制の対象に加える(5)マジコン、CSS、映像のネット配信における視聴期間の設定など、著作物を保護するアクセスコントロールについて、正当な目的がある場合を除き一定の回避行為を規制する――などの規制強化案が出されている。

 また、日米欧など主要国で交渉中の模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)が2010年秋~冬にも妥結する見込みとなっている。家庭用ゲーム業界からも、マジコン規制の強化を求める要望が出ている。これらの背景を踏まえて法制小委でも早期の法改正を念頭に、知財本部の案を基に具体的な規制内容を詰める。ただし、これらの規制強化には著作権法と不正競争防止法の両方の改正が必要となる。法制小委で扱うのは著作権法のみであるため、不正競争防止法を担当する経済産業省の審議会と調整しながら進める予定。

 2010年度の法制小委は2011年1月で終了し、報告書を上位組織の著作権分科会に提出する。その後、権利制限の一般規定(いわゆる日本版フェアユース)などと共に、2011年3月上旬をめどに通常国会に著作権法の改正案を提出するというスケジュールを想定している。これに間に合うよう、法制小委の傘下に「技術的保護手段ワーキングチーム」(WT)を新設。月2~3回のペースで会合を開き、2010年11月末までに規制案の詳細をまとめる。その後、2010年12月に国民からの意見募集(パブリックコメント)を行い、2011年1月に法制小委としての規制案を最終決定する意向だ。WTの座長は、法制小委の主査を務める土肥一史氏(一橋大学大学院教授)が兼任する。