文化庁長官の諮問機関で著作権制度の根本的なあり方を議論する、文化審議会 著作権分科会 基本問題小委員会の最終会合が2010年8月23日に開催され、これまでの議論をまとめた報告書を全会一致で承認した。基本小委は2009年度に新設されたもので、デジタル機器やブロードバンド回線が広く普及した現状を踏まえ、著作権という制度そのものをどのように変革するかといった、抜本的な議論を行うことを目的としており、今回までに9回の会合が開かれて議論が進められていた。しかし、この日まとまった報告書では、現行の著作権制度のもとで、これまで争点となっていた複数の課題を引き続き検討していくとの表現にとどまり、当初目指していた著作権制度に対する新たな提言を導き出すには至らなかった。

 報告書では、デジタル機器やブロードバンド回線の普及により(1)違法複製・違法流通の増大(2)記憶媒体の大容量化に伴うソフトウエアやコンテンツの不足(3)機器の汎用化(4)アマチュアによる創作・流通が容易になったことに伴うプロとアマチュアの混在化(5)デジタル著作権管理(DRM)による正確で迅速な権利処理の実現(6)出版社やレコード会社がクリエイターとユーザーを仲介するビジネスモデルから、クリエイターとユーザーが直接つながる形への変化――などが起こっていると指摘した。

 その上で今後の著作権制度の果たす役割について、「デジタル・ネットワーク社会における精神的な豊かさを求める傾向や、記録媒体の大容量化などに伴うコンテンツの恒常的な不足を踏まえれば、コンテンツの創造、保護、活用の基盤となる著作権制度の役割は今後も重要である」とし、「著作権制度が果たすべき役割は何ら変わるものではないとの認識」に立つとしている。一方で、「自由な表現・流通の障害になっているというような認識を持たれることのないよう、利用者の利便性を図るシステムであることが求められる」とも言及し、「デジタル・ネットワーク化の進展に伴い、必要な制度の見直しを行っていくことが必要」と結論づけた。

 基本小委では具体的な検討項目として「新しい時代に対応した著作権法制のあり方」を挙げていたが、報告書では「継続的な検討が必要」と述べるにとどまっており、抜本的な見直しを打ち出すには至っていない。同様に検討項目として挙げられていた「著作物の利用に係る新たなルールの構築」については、法律とソフトロー(契約やガイドラインなど)の一体運用の推進や、「著作権契約法」の制定などが議論されたが、結局は「今後、法律とソフトローとの一体的な運用を進めるにあたって必要な仕組みについて検討していくことが考えられる」と、弱い表現に抑えられている。

 権利者側を中心に複数の委員が強い関心を示した私的録音録画補償金制度の見直しについては、私的録画補償金管理協会(SARVH)と東芝の裁判が東京地裁で進行中であることなどから、判決が出るまで当面は棚上げの状態が続く見通し。同様に権利者側が議論を求めている保護期間の延長問題については、2007~08年度に開催されていた「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」(保護利用小委)で集中審議したものの結論が出なかった経緯がある。報告書では「今後、さまざまな状況の変化を踏まえつつ、関係者による建設的な検討が行われるような議論の場を設ける必要がある」としており、当面は棚上げとなる公算が大きい。

 今回まとめられた報告書は、上位組織である著作権分科会が2011年1月に予定している次回会合において報告される予定。著作権の普及・啓発など一部検討項目については、著作権分科会への報告を待たずに文化庁が実施する意向を示している。