国立国会図書館長の諮問機関である「納本制度審議会」は2010年6月7日、インターネット上で公開されているオンライン資料の収集について答申した。答申では、民間企業などがインターネット上で公開した電子書籍や電子雑誌などについて、そのデータを国会図書館で収集する制度を新設することを提言。2011年の通常国会で国立国会図書館法を改正することを目指し、具体案を検討していく。

 国会図書館では現在、国内で発行される印刷物の書籍や雑誌などについて、その全数を収集し所蔵するという「納本制度」を法律で定めている。これは、書籍を文化財と位置付け、それをもれなく保存することで、将来にわたって研究などで活用できるようにするための制度だ。電子書籍や電子雑誌は現行の納本制度の対象外だが、これらも印刷された書籍・雑誌などと同様に文化財として蓄積・利用できるようにすべきと判断した。

 収集対象として答申で想定しているのは、電子書籍や電子雑誌に加え、電子コミックやケータイ小説など。民間のWebサイトやブログ、ツイッター、音楽配信や動画配信などは対象外とする。具体的な収集基準としては、(1)図書や逐次刊行物に相当するもの(2)紙の書籍や雑誌と同内容であっても収集する(3)有償・無償にかかわらず収集する(4)内容による別はしない――という方針を検討している。出版社などからデータを送信してもらうほか、Web上の巡回による自動収集(クローリング)も併用する。収集したデータは、データベースに収録するだけでなく国会図書館内で閲覧・印刷できるようにする考えだ。

 電子書籍・電子雑誌などのデータを出版社から国会図書館へ納本する際にかかる費用についても検討している。書籍・雑誌などの納本制度では、出版や納本にかかる費用を「代償金」として支払っている。電子書籍・電子雑誌の納本の場合、フォーマット変換、デジタル著作権管理(DRM)の解除、メタデータの作成、データ送信の手続きなどの実費を支払うことを検討している。

 今回の答申では、電子書籍・電子雑誌などを幅広く収集する考えだが、当面は印刷物の書籍・雑誌の納本制度のような罰則規定を設けることはせず、データでの納本の強制力を緩めている。また、当面は電子書籍・電子雑誌以外に対象を広げることも検討していないとする。「米国のインターネットアーカイブと同様、日本でもインターネット上のあらゆるコンテンツを収集できるとよいが、人員や予算の制約もあり、全面的にやるのは難しい」(納本制度審議会 会長代理で東京大学教授の浜野保樹氏)。

 こうした電子書籍・電子雑誌などの収集を実現するには、著作権法による複製権の制限の問題をクリアする必要がある。現状では、国会図書館がインターネット資料を収集するために複製する規定が、著作権法の第42条の3、国立国会図書館法の第25条の3などに設けられている。これは国や地方自治体、公的機関などのWebサイトを対象としており、今回想定している民間の電子書籍・電子雑誌などは現時点で対象外である。印刷物の書籍や雑誌と同様に電子書籍・電子雑誌などを収集するには、法改正で複製権の制限規定を新設する必要があるとする。

 審議会では校了時の版下データを収集することも検討されたが、「QuarkXPressかInDesignか、バージョンをどうするかなど煩雑なので、今回は最終的に電子出版されたフォーマットで収集する方向で答申がまとまった」(納本制度審議会 代償金部会長で国際日本文化研究センター 名誉教授の合庭惇氏)としている。