「これまで70年間公益法人として努力してきたが、過去は過去。今年の徴収額がいくらということも大事だが、著作権の保護と文化を守っていく上で何が必要かということを考えたい。JASRACの立ち位置を見直し、過去に囚われず、勇気を持って変えていきたい」――。

 日本音楽著作権協会(JASRAC)の加藤衛理事長は、2010年5月19日の定例会見でこう語り、音楽関連市場の変化に合わせてJASRACの事業も積極的に見直していく必要があるとの考えを示した。

 JASRACが同日発表した2009年度の音楽著作権使用料の徴収額は、対前年度比3.1%減の1094億6430万円。2008年度に比べ約35億円減少しており、下げ幅は過去最大。CDなどのパッケージメディアの市場縮小に伴う減収幅が32億円と大きく、放送収入も放送局の売り上げ減に伴い著作権使用料の料率が下がったことなどから減収となった。「着うたフル」やパソコン向け音楽配信、動画サイトや動画共有サイトからの使用料収入は伸びたものの、上述の減収を補うには至らなかった。

 こうした現状を踏まえ加藤理事長は、「トータルで言えば日本の音楽市場がシュリンクしているわけではないが、これまでのやり方では音楽著作権の管理は不可能になっていく。これは日本だけでなく、世界の著作権管理団体が苦しんでいるところ。市場の変化に応じた合理的な管理の仕方が必要」とする。

 具体例として加藤理事長は、JASRAC以外の音楽著作権管理事業者や音楽配信事業者と共同で開設した、音楽著作権の集中管理システム「Fluzo」を挙げる。「日本はネット上での音楽流通が進んでいるが、一方で配信される楽曲の著作権管理という苦しみが出てきている。配信する側の事業者は(使用実績の集計などで)もっと苦しんでいる。そこで利用者と権利者が利害一致して法人を立ち上げ、Fluzoを開設した。これがうまくいけば、世界の団体はFluzoに類したシステムを採用するだろう。ネット上の著作権管理の仕組みを、世界に先駆けて日本が開発して推進し、他国のモデルになることが一番」と決意を述べた。

 使用料徴収と不正利用対策との兼ね合いでは、「2009年に著作権法の改正があり、違法なものと知りつつ音楽・映像をインターネットからダウンロードする行為も違法となった。しかし現実問題として、1人ひとりのアップローダー、ダウンローダーを追いかけるだけでは、いたちごっこになる。ヒントの1つになるのは動画共有サイト。かつては無許諾で勝手に音楽を使った作品が投稿されていたが、YouTubeもニコニコ動画も発想の転換が起きた。違法配信も流通のうちだ考えれば、流通は盛んになっている。サイト運営者が、自分たちの運営するサイトに投稿されるものを自ら検証して、責任を持って違法配信を合法化していく発想が正しかったと思う」(加藤理事長)とした。

 最近話題となっているミニブログ「Twitter」についても、「技術的な検証は必要だが、運営会社と音楽著作物の二次利用について包括許諾契約を結べれば、ユーザーは直接の費用負担なく、安心してTwitter上で歌詞を使えるようになる」(菅原瑞夫常務理事)として、包括許諾契約の締結に向けた取り組みを進めていく姿勢を示した。

 ただ一方で、「違法配信を合法化していく考えのあるところは一部。それ以外の違法配信はちっとも減らない。違法配信を合法化して取り込んでいくことに加え、悪質なサイトに対して民事・刑事で強い対応を取ることも考えたい」(加藤理事長)とも語り、違法配信の合法化と悪質配信サイトの検挙を並行で進めていくとしている。

日本版フェアユースは「裁判が日本になじむのか依然疑問」

 定例会見では、文化審議会で中間取りまとめが出る予定の日本版フェアユースについて、「流通のために権利を制限することは賛成できないという以前のスタンスは変わっていない。以前はフェアユースという言葉だけが一人歩きしていて目的と範囲が分からなかった。そこはある程度具体化してきたが、まだ分からない部分もある。今後、パブリックコメントを踏まえて審議が進んでいくと思うが、目的・範囲を明確にしていただくことが必要」(菅原常務理事)とした。また、米国のフェアユース規定のように判例を積み重ねていく仕組みについては、「司法に委ねた場合に円滑に進むかどうか、裁判が日本になじむのかという点で疑問が残る。そこも含めて案を整理してほしい」(菅原常務理事)と慎重な姿勢を示した。

 戦時加算規定の廃止については、「残念ながら見込みが立たない。著作権の国際会議で賛成いただき、鳩山由紀夫首相にも何とかすると言っていただいたが、そこから話が進んでいない。第2次世界大戦の賠償金が足りないからといって、文化を犠牲にして賠償金の足しにしたようなもので、国辱ものである。サンフランシスコ講話条約が結ばれたときにどういう話があったのか、なぜ戦時加算規定ができたのか、本当のことを表に出すべき。それを国民が知れば、関係者も少しは重い腰を上げて動いてくれると思う」(加藤理事長)と不快感を示した。

 私的録音録画補償金については、「私的録画補償金はブルーレイディスク(Blu-ray Disc)が指定されたので増加しているが、私的録音補償金は減少している。現行制度の下では新たな機器の指定がないと減少してしまう。指定されるべきものの穴が空いている。Culture First連合と連携して主張を続けていきたい」(菅原常務理事)と、従来の姿勢を改めて表明した。