著作権管理事業者のジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)とSNS「MySpace」を運営するマイスペースは2010年3月30日、JRC管理楽曲の二次利用について暫定の許諾契約を結び、運用を開始したと発表した。MySpaceのサイト内で、インターネット放送/動画共有サイト「Ustream」の映像を配信するケースを対象としている。ユーザーが映像を制作・配信する際に、事前の許諾なく作品内でJRC管理楽曲を使用可能になる。

 今回の許諾契約は、JRCが管理している著作権のほか、音楽出版社が持つ著作隣接権の一種である原盤権も対象としているのが特徴。これまで動画共有サイトなどを対象とした音楽著作権の包括許諾では、著作権のみを対象とし、原盤権は含まれなかった。このため従来は、ユーザーが自由に使えるのはユーザー自身が歌唱・演奏するなどに限られ、市販のCD音源を二次利用したい場合は、別途ユーザーが原盤権者に許諾申請する必要があった。今回の許諾契約では、対象楽曲をMySpace内でUstream配信する場合において、市販のCD音源も事前許諾なく二次利用できる。

 対象楽曲にはBEGIN、mihimaru GT、ORANGE RANGE、YUI、坂本龍一、スピッツ、浜田省吾などの楽曲が含まれる。ただし、「同じアーティストでも原盤権者が異なるなどの理由で、原盤権も含め許諾しているケースと著作権のみ許諾しているケースがある」(JRC)。また、一部楽曲は4月1日以降使用可能になる。対象楽曲はJRCのWebサイトで検索可能。

「音制連から許諾契約の要望」

 著作権に加え原盤権も許諾契約の対象とした背景について、JRCは「ユーザーと権利者のニーズが一致しており、それを管理事業者として仲介した」としている。MySpaceは楽曲のプロモーション映像やライブ映像を含むアーティスト情報に力を入れており、ユーザーからも自らのライブ映像を掲載したいというニーズが高い。一方、原盤権者にとっても「自社で保有する権利を使ってもらいたいという原盤権者がいるものの、連絡先を公開して二次利用の許諾手続きをするのが難しいという悩みがあった」(JRC)という。音楽出版社などで組織する著作権団体の音楽制作者連盟(音制連)からJRCに対し、原盤権の二次利用の許諾契約について打診があり、JRC自身が管理する著作権とともに、音制連加盟の音楽出版社各社が持つ原盤権の二次利用をJRCが仲介する形で、許諾契約を実現したとしている。

 なお、今回の許諾契約は正式なものではなく、向こう3カ月の暫定契約としている。理由は4つあり、第1に、Ustreamの日本法人が設立前であるため。「本来はUstream日本法人の設立後に権利に関する協議を開始するところだが、ユーザーのニーズにいち早く応えるために、Ustream日本法人設立までの間、マイスペースが権利処理を代行することにした」(発表資料)。第2に、原盤権の使用料規程が決まっていないため。「JRCはあくまで許諾手続きを代行しているに過ぎず、使用料をどのように定めるかは各原盤権者が判断することになる」(JRC)。しかし、動画共有サイトなどの一般ユーザーを対象にした原盤権の許諾契約は前例がないため、暫定契約期間にユーザーの二次利用の動向を把握した上で、改めて協議することとしている。

 第3に、当面は一般ユーザーが許諾楽曲を二次利用した動画をアップロードできないため。今回の許諾契約により楽曲を二次利用できるのは、MySpace上に新たに設ける「Ustreamチャンネル(仮称)」でライブ中継/アーカイブ配信するプロのアーティストに限られる。「当面はマイスペースが把握できる範囲でスキームを試験運用していくため」(マイスペース)の措置としている。マイスペースでは、一般ユーザーもMySpaceのUstreamチャンネルでライブ中継/アーカイブ配信できるようJRCと交渉を始めているが、一般ユーザーが許諾契約を活用した動画配信ができるようになる時期は未定である。第4に、現時点ではJRC管理楽曲すべてを対象とした包括許諾契約ではなく、一部楽曲を対象としたものであるため。JRCの管理楽曲は約8000曲。このうち今回の許諾契約で対象としているのは、著作権が1367曲、原盤権が347曲である。「暫定契約は包括許諾契約に向けたトライアルと位置づけており、実験期間で包括許諾契約に向けた課題などを整理していきたい」(JRC)としており、今後は対象楽曲の拡充も期待できそうだ。

 なお、「営利目的で二次利用する場合は許諾契約の対象外となる」(JRC)。またMySpaceでは、Ustreamチャンネル以外にも個人のプロフィールページなどで動画のアップロードが可能だが、これも対象外だ。二次創作された動画において、どの楽曲がどの程度二次利用されたかのログについては「マイスペースが集計に前向きな姿勢を示している」(JRC)としている。

■変更履歴
記事掲載当初、今回の許諾契約について「包括許諾」と記載しておりましたが、実際にはJRC管理楽曲の一部が対象で、包括許諾ではありませんでした。これに伴い、記事タイトルと本文の該当個所を修正し、第6段落に補足説明を加筆しました。 [2010/03/30 22:22]