文化庁長官の諮問機関で著作権制度について話し合う文化審議会 著作権分科会の2009年度の最終会合が、2010年1月27日に開催された。下部組織である国際小委員会、基本問題小委員会、法制問題小委員会からの審議経過の報告を受け議論が行われたが、著作権の権利制限の一般規定(いわゆる日本版フェアユース)に関する発言が複数の委員から相次いだ。

 この日の会合では、法制小委の主査を兼任する土肥一史委員(一橋大学教授)が、法制小委での審議経過を報告。報告内容は1月20日の法制小委で議論されたものとほぼ同様で、一般規定の導入の必要性などを引き続き慎重に検討し、権利者の利益を害するおそれが小さい「形式的権利侵害行為」やそれに近いものについて一般規定の導入も考えられるという内容である。

 これに対し、権利者団体で役員を務める委員などが、一般規定に反対する意見を相次いで表明した。「今後も慎重に検討してほしい。権利者としては一般規定に反対せざるを得ない。個別規定の適宜見直しで十分」(辻本憲三委員=コンピュータソフトウェア著作権協会理事長)、「Googleブックサーチの訴訟の和解案をきっかけに、米国のフェアユースが世界中から糾弾されている。小さなフェアユースとして、一部領域だけでも導入したいという考えを持つ委員もいるようだが、私はフェアユース自体が問題だと思っている。個別規定で迅速に対応できれば問題ない」(三田誠広委員=作家、日本文藝家協会副理事長)、「サッカーで『点が入らないからつまらない』といって、サッカーのルールそのものを変えたりはしないだろう。同様に、著作権は文化の問題として採り上げられてきており、今後もそうしてほしい。今までの議論が無駄になることのない方向で議論してほしい」(大林丈史委員=日本芸能実演家団体協議会専務理事)、「一般規定導入の理由として萎縮効果が挙げられているが、裁判が起これば原告、被告とも負担が生じ、経済効果より裁判負担によるマイナスの方が大きくなるのではないか。個別規定と許諾をベースにすれば、管理コストを差し引いても利用拡大の経済効果を大きく見込め経済の活性化につながる」(金原優委員=日本書籍出版協会副理事長)、「個別規定で解決できそうな課題に対して、あえて一般規定を導入しようとする意義が明確でない。そこの意味付けを明確に説明してほしい」(瀬尾太一委員=日本写真著作権協会常務理事)。

 このほか、法制小委の委員を兼任する松田政行委員(弁護士、中央大学客員教授)は、「一般規定の導入は、経済効果というプラス面を目指してのものだろうが、経過報告を見る限り否定的に書いてあるように読める。経済効果がないならば導入する必要がないのでは」と語り、日本版フェアユース推進派をけん制。しかしこれについては、土肥委員が「報告書に記載したのは、米CCIA(コンピュータ&コミュニケーション産業協会)の報告書をもってフェアユースの効果を証明することはできない、という意味にすぎない。それ以外の文献を含め、一般規定を導入するメリットがどうか書いたものではない」と指摘した。

 また、法制小委の委員を兼任する中山信弘委員(東京大学名誉教授、弁護士)は、一般規定の導入を推進する立場から、上述の反対意見に反論。「法律を制定しただけでGDPが何兆円増える、といったことは、著作権でもその他でもありえない。一般規定を導入する意義は、権利者の利益を害さないユーザーの利用形態を妨げないようにすべきということ。具体的にはビジネスモデル次第だが、例えば過去には検索エンジンという例があった。検索エンジンが日本でなく米国で立ち上がったのはフェアユースがあったからで、フェアユースがなければ米国でも立ち上がらなかっただろう。最近ではクラウドコンピューティングという新技術が出てきているし、今後どんな新技術が出てくるかわからない。かつての検索エンジンと同様に新技術が出てきたときに、それを禁止してしまってよいのか」と説いた。

 なお、瀬尾委員が政府の「知的財産推進計画2009」に関連し、「自民党から民主党への政権交代を経た今も、知財計画2009は有効であるのか」と質問。事務局である文化庁著作権課の永山裕二課長は「現時点でも、策定当初から位置付けが変わっているとは聞いていない」とコメントし、引き続き知財計画2009に準拠して日本版フェアユース規定の検討を続行する意向を示した。知財計画2009は「重点的に講ずべき施策」の1つとして「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入する」という項目があり、その中で「2009年度中に結論を得て、早急に措置を講ずる」と記されている。

補償金の見直しを求める声も

 日本版フェアユース以外では、私的録音録画補償金の見直しをめぐる意見が出た。玉川寿夫委員(日本民間放送連盟専務理事)は「2008年度の著作権分科会において、補償金の見直し問題を話し合う懇談会を2009年度に立ち上げるという話があったが、未だに開催されていない。スピード感を持って審議していく必要がある。また、見直しの内容も、2007年10月の中間取りまとめから後戻りせず、中間取りまとめに積み上げる形で議論を進めてほしい」と注文した。石坂敬一委員(日本レコード協会会長)も「権利者側とメーカー側の意見の隔たりが大きく議論が進まない中で、私的録音補償金はピーク時の2000年は40億円であったが、2009年度に5億円、2010年度は3億円まで縮小する見込みとなっており、ひどい状況だ。私的録画補償金をめぐっては訴訟も起きている。一刻も早く議論の進展があることを望む」とした。