日本書籍出版協会(書協)と日本文藝家協会などは2009年11月4日、国立国会図書館が所蔵する和書を電子化してインターネットで配信することを目指すと発表した。同日付で「日本書籍検索制度提言協議会」を発足させ、制度の枠組みを2010年4月をめどに提言する考え。作家や出版社など権利者の許諾を得つつ、2010年度末で90万冊とも言われる膨大な和書データベースの一般開放を目指す。
国会図書館は、印刷・製本された書籍が経年劣化や破損・汚損などで読めなくなるのを防ぐ目的で、蔵書の全ページをスキャンしてデータベースに蓄積するデジタルアーカイブ化を進めている。著作権の保護期間内の書籍については、これまでアーカイブ化に伴う複製について権利者の許諾が必要であった。しかし、2009年6月に成立し2010年1月に施行される改正著作権法では、国会図書館が自らの蔵書をアーカイブ化する目的で行う複製を権利制限の対象に加え、権利者による複製許諾を不要とした。このため国会図書館は、2009年度と2010年度に蔵書のアーカイブ化に向けた予算を計上している。「2009年度は30万~40万冊をアーカイブ化し、戦前の蔵書をすべてデータベースに蓄積したい。政権交代があったため2010年度予算は保留としているが、できれば1978年度くらいまで、2009年度分と合わせて90万冊くらいをアーカイブ化したい」(国立国会図書館の長尾真館長)。
協議会が検討する構想は「日本書籍検索制度」。国会図書館のアーカイブを二次利用し、国会図書館の蔵書をネット上での閲覧可能にすることを目指す。アーカイブの館外利用は権利制限の対象外であるため、著者や出版社に対し許諾を求める。許諾を得たコンテンツから順次閲覧可能にし、未許諾/不許諾のコンテンツは閲覧不能とするオプトイン方式を検討する。また、ネット上での閲覧は原則有償とし、徴収した料金を著者や出版社などに配分する意向だ。当面は日本国内で発行された書籍のみを対象とし、新聞や雑誌、洋書などは対象としないとする。一方で「できるだけ多くの出版物を、できるだけ多くの方にお届けしたい。海外にいる日本人や日本語コンテンツの閲覧を希望する人も含めて、また絶版書籍だけでなく刊行中の書籍も含めてそろえていきたい」(書協の金原優副理事長)と意気込みを語る。
協議会では、今回の正式発足前にも書協、日本文藝家協会と長尾氏、弁護士の松田政行氏と齋藤浩貴氏により、2009年5~10月に非公式の準備会を開催。この日は詳細を明らかにしなかったが、既にたたき台となる制度案を用意している。「今回の正式発足を機に、ほかの関係団体にも幅広く参加を呼びかけていく。その上で各関係者の意見を反映させる形で制度案を修正していき、2010年4月の提言はすべての関係者が賛成し、一丸となって取り組めるものにしたい」(松田氏)。
今後の課題として日本文藝家協会の三田誠広副理事長は、出版権の扱いを挙げる。「米国は絶版の定義が明確だ。著作権の登録制度がある上、書籍を出版する際は著者と出版社が期限を区切って契約し、契約満了後は出版権が著者に還る仕組みが確立している。日本もかつては紙粘土を壊した(活版印刷の保存用の版下である紙型を破棄した)時点など、出版権の区切りがある程度あったが、今は在庫がどこかに残っていれば絶版とは言い切れない。出版権がずるずると出版社に残る状況をどうするのか、我々の問題として考えるべき。個人的には『版面送信権』のようなものが必要ではないかと考えている」とした。このほか、(1)著者や出版社からの諾否を集約する仕組み、(2)著者や出版社に支払う著作権使用料の体系、(3)アーカイブに蓄積された書籍データの国有財産としての扱い、(4)印刷会社/取次/書店などとの利害調整――などが議論の対象となりそうだ。
Googleが提供している「Google Book Search」との違いについては、「非合法にデータを作ったGoogleと、今回の完全に合法なものは違う。Googleが(連絡をしないと自動的に二次利用を許諾したとみなす)オプトアウト方式を採っていることを世界中の作家が問題視している。文藝家協会に所属する作家に限って言えば、勝手に電子化したことへの慰謝料や版権レジストリの整備などの和解案に合意したが、それでは文藝家協会非所属の作家は救済されない。近く文藝家協会と日本ペンクラブ、日本推理作家協会などで共同声明を出すことを検討している。国会図書館でアーカイブの利用が可能になれば、Googleのデータを全部削除しても構わない」(三田氏)と語り、協議会の制度案があくまで事前の許諾を必須とする点を挙げている。
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