2010年1月に施行予定の改正著作権法で盛り込まれた、いわゆる「ダウンロード違法化」条項について、文化庁 長官官房 著作権課 著作物流通推進室長の川瀬真氏が、2009年7月30日に開催された日本レコード協会(RIAJ)の報道関係者向け懇談会で講演した。

 ダウンロード違法化条項は、権利者の許可なくインターネット上にアップロードされた音楽・映像の違法コンテンツについて、違法にアップロードされたものであると知りながらダウンロードする行為を違法とするもの。従来の著作権法では、違法にアップロードされたものであっても、著作権法30条に定める私的複製の範囲内であれば、ダウンロードが認められていた。違法着うたやファイル交換ソフトによる違法コンテンツの配信が広がっていることに対処するため、改正著作権法で違法とされた。なお、ダウンロード違法化が適用される条件として、対象のコンテンツが違法にアップロードされたものであることを、ダウンロードしたユーザーが知っている場合に限定している。また、罰則は設けていない。プログラムや漫画、小説など、音楽・映像以外のコンテンツに対しては、ダウンロード違法化の適用を見送っている。

「訴訟の積み重ねより、日本人の順法精神で新しい秩序を」

 ダウンロード違法化の背景として川瀬氏は「違法アップロードは公衆送信権侵害で検挙できるが、従来の著作権法では違法コンテンツのダウンロードは私的複製に当てはまり合法という状態が続いていた。また、ファイル交換ソフトの機能が上がっており、誰が違法コンテンツをアップロードしたか分からないといったソフトもある。違法アップロードだけの対策ではネットの秩序を保てず、違法アップロードと違法ダウンロードの両方から違法コンテンツの流通を抑制する必要があると判断した」ことを挙げている。また海外事情にも触れ、「ドイツ、フランス、スペイン、フィンランドなど欧州各国でもダウンロード違法化が法制化されている。英米法系の国ではそもそも私的複製による著作権の制限規定がなく、米国でも違法コンテンツのダウンロードはフェアユースに該当しないとする判例がある」として、欧米各国でもダウンロード違法化の整備が進んでいることを説明した。

 ダウンロード違法化に限定条件を付け、罰則を設けなかったことについては、「ダウンロード違法化の背景は、個々のユーザーがパソコンなどで複製すること自体が社会正義に反するというよりも、さまざまな方がファイル交換ソフトやインターネットを使ってダウンロードすると、総体として正規配信に悪影響を与えているということ。そうした観点から、今回の改正では個人を罰則により罰するのは不要ということ」と語り、個別の違法ダウンロードを取り締まることが目的でないという趣旨を説いた。権利者が違法ダウンロードを行ったユーザーに対し損害賠償を求める民事訴訟を起こすことは理論的には可能だが、「民事訴訟でユーザーが情を知っていたか否かを判断するのは、現実には難しい」との見解を示した。

 その上で川瀬氏は、「訴訟を重ねてルールを作るのでなく、穏やかなルールを作り周知することで正規の流通を守り創造のサイクルを確保することが今回の改正の狙い。ファイル交換ソフトの使用をやめた人に理由を聞くと、セキュリティー上の懸念に次いで著作権侵害が2位にきている。日本人は順法精神があると言われているので、ルールに対する意識を広めることで、新しい秩序を作ることが目的」と語り、罰則のない規定とユーザーの意識により、コンテンツの違法流通に歯止めが掛かることに期待を示した。

 文化庁では、RIAJや日本音楽著作権協会(JASRAC)、音楽出版社協会(MPA)など権利者7団体と共同で連絡協議会を設置。ダウンロード違法化の周知と、今回の改正に便乗した不正請求に対する注意喚起など、官民合同で広報活動に取り組むとしている。

文化庁 長官官房 著作権課 著作物流通推進室長の川瀬真氏。
文化庁 長官官房 著作権課 著作物流通推進室長の川瀬真氏。
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ダウンロード違法化の背景。違法配信の楽曲数が正規配信を大幅に上回っていること、違法配信では配信事業者や権利者が収入を得られずビジネスを阻害していることなどを挙げた。画像は配付資料からの抜粋。
ダウンロード違法化の背景。違法配信の楽曲数が正規配信を大幅に上回っていること、違法配信では配信事業者や権利者が収入を得られずビジネスを阻害していることなどを挙げた。画像は配付資料からの抜粋。
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今回の改正著作権法で新設されたダウンロード違法化条項の概要。画像は配付資料からの抜粋。
今回の改正著作権法で新設されたダウンロード違法化条項の概要。画像は配付資料からの抜粋。
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