日本音楽著作権協会(JASRAC)は2009年5月20日、2008年度の音楽著作権使用料等の徴収額が対前年度比2%減の約1129億円となったと発表した。音楽CDやカラオケからの使用料徴収額が下落し、「着うたフル」などのインタラクティブ配信や放送分野の伸びでカバーできなかった。景気低迷による音楽関連市場の縮小が主因とJASRACでは説明している。

 「カラオケ関連の収入は、これまでのJASRACの徴収実績のかなりの部分を占めていた。しかし2008年暮れ以降閉店が相次ぎ、市場が縮小している」(JASRACの加藤衛理事長)。カラオケ関連では、配信事業者から店舗への配信に関する「通信カラオケ」が同5%減の61億円、カラオケ店での「演奏」が同3%減の137億円にとどまった。「徴収から分配までのタイムラグが半年程度あることから、今後4~6月、7~9月の四半期に、徴収実績の数字として(相次ぐ閉店の)影響が出てくるだろう」(加藤理事長)と語り、今後さらなる縮小があるとみている。

 加藤理事長が危機感を募らせているのが、放送分野の徴収額が頭打ちになっていることだ。これまで放送分野の徴収額は増加を続けており、音楽CDなどの落ち込みをカバーしてきた。2008年度実績でも、同5%増の278億円と伸びている。しかし、「2008年度の使用料の算定基準は、2007年度の放送局の事業収入を基にしている。2007年度はまだ良かったが、(2008年度の放送局の業績を基に算定する)2009年度は、多少の料率改訂があったとしても、対前年度比5%増という数字にはとうてい行かない。マイナスにはならないだろうが、ぎりぎりだろう」(加藤理事長)と語り、2009年度は他分野の下落を放送分野で補うのは困難との見方を示した。

 事業収入の悪化の兆しはほかにもある。「テレビを見ていれば分かる。例えば、少しでも制作コストを削減するために、(個別課金となっている)コマーシャルでスポンサーが著作権フリーの音楽を使う傾向がある」。CATV(ケーブルテレビ)からの徴収額も、2008年度は訴訟の解決に伴う増額があり38億円となったが、「2009年度以降は訴訟関連の増額がゼロになる。通常のCATV分野の徴収額は16億~17億円程度」(加藤理事長)といい、20億円近い減額を見込んでいる。

 音楽配信や「着うたフル」、「着うた」、着信メロディーなどを含む「インタラクティブ配信」は同6%増と堅調だが、徴収額は89億円とまだ小規模。「音楽CDは長期低落だから、正直あまり期待していない。よほどインタラクティブ配信が復調してくれない限り大変な状況」(加藤理事長)。

 「徴収額減少は不況だけのせいなのか」という記者からの質問に対し加藤理事長は、上述のカラオケや放送分野の例を引き合いに出しつつ、「こうした日本の経済状況は関係ないとはとても言えないし、そうであってほしい。不況が原因でなければ、徴収額は今後長期低落傾向になってしまう。不況が原因ということにしておいてほしい」と本音を漏らした。

「審判への意気込みも自信もない。公取委 vs. JASRACと見ないで」

 JASRACは、放送局との間で結んでいる音楽著作権の二次利用に関する包括許諾契約の内容をめぐり、公正取引委員会から排除命令を受けている。その後JASRACは、4月28日に公取委へ審判を請求。「事前の手続きもあり、実際に審判が開かれるのは7月くらいになるのではないか」(JASRACの菅原瑞夫常務理事)という。

 会見で「審判への意気込みと自信のほどは」と記者から尋ねられた加藤理事長は、「意気込みも自信もない。公取委 vs. JASRACという構図で見ないでほしい」と語り、報道の過熱ぶりに苦言を呈した。加藤理事長はまた、「排除命令が効力を発している以上は従う義務があるため、審判請求を出した上で、並行して『契約をどう変えれば良いのか』という話を公取委と何回かしている。しかし、ああせいこうせいという話はない。日本の放送事業全体にかかわる著作権処理のあり方をどうすれば、公取委に理解してもらえるのか」と語り、公取委がどのような方向性で問題解決を目指しているのか不明であることに不快感を示した。その上で加藤理事長は、「ソフトランディングできる解決策を模索するのが、勝った負けたより先の問題」と語り、公取委に対して全面対決の姿勢ではなく、前向きに問題解決に取り組む意向を改めて強調した。

 文化審議会で議論が始まった日本版フェアユース規定については、「JASRACは頭から反対しているわけではない。しかし、フェアユースとはいったい何なのか。学識経験者など、誰一人として同じことを言わない。議論の整理が日本ではされていない」(加藤理事長)と語り、日本版フェアユース規定の定義が不明確のまま議論を進めると、混乱を助長するだけで有意義な合意形成はできないと指摘。

 その上で加藤理事長は、「米国のフェアユース規定は一見自由になっているが、権利者からノーと言われたときに金銭的なリスクを負うという、自己責任の仕組みになっている。国内では、非営利の利用についてやみくもに規制せず、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応していくことがJASRACの役目だろう。だが、他人の著作物を営利目的で使うのはフェアユースではない、対価を払ってほしいということは言っておきたい」と語り、日本版フェアユース規定の範囲が拡大することに警戒感を示した。