文化庁長官の諮問機関で著作権の法体系にまつわる課題を検討する、文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会の2009年度第1回会合が、2009年5月12日に開催された。「権利制限の一般規定」(いわゆる日本版フェアユース規定)の導入の是非を中心に議論を進めていく。

 2009年度の法制小委の委員は18人。学識経験者と弁護士が大半だが、法務省や東京地方裁判所からも参加している。今回の会合で、土肥一史委員(一橋大学大学院教授)が主査を務めることが決まった。

 この日の会合では、2009年度の法制小委の議題として以下の問題を扱うことを明らかにした。

 ■権利制限規定の見直し

  権利制限の一般規定(いわゆる日本版フェアユース規定)
  薬事関係
  図書館関係、学校教育関係の権利制限
  私的使用目的の複製の見直し(プログラムの著作物)

 ■放送・通信のあり方の変化への対応
 ■ネット上の複数者による創作に係る課題
 ■間接侵害

 また、個々の議題について詳細に検討するため、法制小委の傘下に「契約・利用ワーキングチーム」と「司法救済ワーキングチーム」を設置する。両ワーキングチームの主査は、末吉亙委員(弁護士)と大渕哲也委員(東京大学大学院教授)がそれぞれ務める。

 最大の論点は日本版フェアユース規定である。現行の著作権法では、著作権の及ぶ範囲を制限するケースとして「私的利用」や「引用」など、個別の規定を設けている。日本版フェアユース規定は、こうした個別規定ではなく一般規定を新設することで、公正な使用(フェアユース)と認められる範囲であれば、個別規定に記載がなくても権利制限するというものだ。

 日本版フェアユース規定をめぐっては、関係者の間で賛否が大きく分かれている。推進派からは、現行の著作権法が想定していない、新たな著作物の二次利用形態が出てきたときに、法改正を待たずに権利制限を適用可能になり、ネット関連の新たなビジネスが日本国内でも成立しやすくなる、といったメリットが挙げられている。慎重派からは、米国のフェアユース規定のように判例の積み重ねでフェアユースの認められる範囲を形成するような法制度は、訴訟の少ない日本になじまない、あるいは、日本版フェアユース規定を盾に無許諾での二次利用がなし崩し的に増え、権利者の許諾権が弱体化する、といった懸念が出ている。

 この日の会合では、議論のたたき台として上野達弘委員(立教大学准教授)らがまとめた「著作権制度における権利制限規定に関する調査研究報告書」が公表された。この中では、現行法の問題点、英米法、フランスやドイツの大陸法における権利制限規定の現状や立法動向、一般規定を導入する場合に考えられる意義と課題などについて言及している。

 この日の会合では、この報告書を基に各委員が質問や意見を述べるという形式で議論が進められた。学識経験者が主体ということもあり、制度設計の詳細に関連するような専門的な質問や意見が多く挙げられ、活発な議論が展開された。

 具体的には、「『現行法で形式的に権利侵害となってしまう事例において過剰な萎縮効果が働いている』とするが、具体的にはどのような分野を想定しているのか」(松田政行委員)、「比較法的な分析をきちんとしてほしい。特に米英独仏の4カ国の権利制限規定が現状どうなっていて、どういう方向で議論が進んでいるかを教えてほしい」(村上政博委員)、「大陸法系のフランスやドイツはともかく、米国以外で英米法系の制度を持ちながらフェアユース規定を採用する国が広がらない背景に何があるのか」(大渕委員)、「日本で一般規定を導入する場合、条文として(ベルヌ条約で定められているスリー・ステップ・テストの要件の一つである)『特別の場合』という書き方ができるのか」(道垣内正人委員)、「『一般規定を設ける際に、あらかじめ考慮要素を明示しておけば、裁判官は柔軟な判断ができる』とするが、具体的にどのようなものを考えているのか」(清水節委員)、「米国ではフェアユース規定の存在により、経済学的にどのような効果が出ているのか」(土肥主査)といった発言があった。

 次回以降の会合で、日本版フェアユース規定に関連があると思われる各分野の外部有識者を招きヒヤリングを行う。具体的には、権利者団体や産業関係団体、消費者団体、教育/図書館/障害者福祉/法曹の各関係団体、日本版フェアユース規定に関係する提言を出している有識者団体、日本版フェアユース規定やその関連問題に詳しい有識者などを想定しているという。