地上デジタル放送のコンテンツ保護に使われている「B-CAS」の見直しが、ようやく具体的な形になってきた。B-CASの実質的な後継となる、新たなコンテンツ保護方式の概要が、情報通信審議会の検討委員会で報告され大筋合意された。B-CASは存続、B-CAS以外の新方式を導入する。不正機器対策として法改正も検討する。今後同委員会で詳細を詰め、早ければ2009年7月に同委員会が出す答申に盛り込まれる見通し。

 地上アナログ放送の完全停波が2年後に迫るなか、地デジ非対応の受信機が約5000万台残っていると言われる。2011年までに新技術を導入し、地デジ受信機の拡大に追い風とできるか。新方式の実用化に向けたスケジュールは、綱渡りの状態が続く。

情通審で新方式案が大筋了承

 この問題を扱う総務相の諮問機関、「情報通信審議会 情報通信政策部会 デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委)の会合が2009年4月22日に開催された。この中で新たなコンテンツ保護方式の概要が公表され、大筋で了承された。今後、暗号技術や運営法人の詳細について詰め、新方式を正式決定する。

 B-CASの見直しは、(1)ユーザーが地デジ対応機器を使いやすくするため、B-CASカードの挿入など難しい手順を改善する、(2)地デジの普及拡大のために受信機を開発・製造しやすくして、幅広い製品が現状より安い価格で販売されるようにする、(3)不正機器によるコンテンツ保護技術の無力化に対抗する――などの目的で進められているもの。

 この見直しは、新たなコンテンツ保護技術を定める「技術的エンフォースメント」と、不正機器を法令により取り締まる「制度的エンフォースメント」という2つの側面から検討されている。実際の検討は、デジコン委の傘下にある非公開の「技術検討ワーキンググループ」(WG)で行われ、WGでの検討結果が随時デジコン委で報告されている。

4方式から2つを選び統合、チップ/ソフト方式から受信機メーカーが選択可能に

 これまでWGでは、技術的エンフォースメントの具体的な実現手法として、(1)B-CASカードの小型化、(2)B-CASカードを受信機のスロットに装着した状態で販売する「事前実装」、(3)放送波の暗号を復号するための専用ICを、受信機の製造時に組み込んでおく「チップ方式」、(4)B-CASカードや専用ICといったハードウエアを使わず、受信機に組み込んだソフトウエアで放送波の暗号を復号する「ソフトウエア方式」――の4方式を検討していた。

 今回のデジコン委の会合では、村井純主査と事務局が「中間報告」として、「放送コンテンツ保護に係る技術・契約によるエンフォースメントの在り方」と題する新方式の案を報告した。
 この案によると、テレビやDVDレコーダーなどの受信機を製造する際に専用の復号ICを組み込む方式、ソフトウエアで復号処理を行う方式の2つを用意し、受信機メーカーがいずれかを選択可能にする。併せて、コンテンツ保護技術を不正に解除する機器を直接取り締まる法整備も視野に入れる。

 今回の中間報告で提案された新方式の主な内容は次の通り。

WGの中間報告で提案された新方式の概要
項目WGで検討されている主な内容
コンテンツ保護技術新たなコンテンツ保護技術を導入。B-CASと新技術のいずれかに対応した受信機で地デジを視聴可能にする。
新技術の対象地上デジタル方式を対象とし、BS/CSの有料放送には適用しない。BSの無料放送については、今回の会合では言及がなかった。
暗号化放送波のスクランブル、受信機側での認証、放送局による個々の番組のコピー制御という「三重鍵方式」を採用する。
受信機での新技術の実装手法チップ方式とソフトウエア方式の両方を採用し、受信機メーカーが個々の受信機の商品企画上、いずれか適していると考える方式を選んで実装できるようにする。復号ICは、ライセンス管理法人からライセンス供与を受けた部品メーカーが製造する。
新方式の技術仕様の開示受信機の開発に必要な機密情報は、受信機メーカーや放送局が「コンテンツ保護にかかるルールを順守する」と誓約すれば、原則として公開することとして、現行のB-CASより容易に受信機を開発可能にする。
新方式のライセンス管理B-CAS社のように株式会社ではなく、非営利かつ透明性の高い法人を設立する。このライセンス管理法人が、受信機メーカーと放送局に対し新技術の技術仕様を開示するとともに、鍵の管理・発行などの業務を担う。
B-CASとの関係「約5000万台に上る既存の受信機に配慮するため」として、B-CASの運用も現状のまま継続する。
受信機メーカーの負担善良なメーカーに過大な負担を与えないようにするため、故意のコンテンツ保護破りのみ契約で損害賠償の対象とし、過失でコンテンツ保護に不具合があった場合は改善を努力目標として求めることにとどめる。
消費者の負担B-CASにおけるカード挿入のように、善意の消費者に負担となる仕組みは、新技術では採り入れない。
不正機器対策鍵の不正取得、不正な受信機の販売・譲渡目的での製造、不正な受信機の販売・譲渡などを法令により取り締まる。既存の法令を検証し、適用可能なものはそのまま適用し、補完が必要な場合は法改正などを行う。

小型B-CASカードも策定、「フルセグ携帯」実現可能に

 なお、B-CASカードの小型化と事前実装については、デジコン委の検討事項としては外れたが、「今後も引き続き、民民ベースで導入を検討していく」(事務局)とされた。

 このうち、B-CASカードの小型化については、既に電波産業会(ARIB)で規格化が完了している。具体的には、2009年3月18日に発行された「デジタル放送におけるアクセス制御方式標準規格(ARIB STD-B25 5.1版)」において、「Plug-in SIM形状のICカード」として規定されている。

 今後は携帯電話など、現行のB-CASカードを内蔵できなかった小型機器でもフルセグの地デジを受信可能になる。併せて、B-CASカードを装着済みの状態で受信機を市販可能になることで、ユーザーがB-CASカードを装着する手間を省けることになる。