文化庁長官の諮問機関で著作権関連の話題を扱う文化審議会 著作権分科会の会合が2009年3月25日に行われた。同審議会における、2009年度の著作権関連の審議がスタートした。2009年度は、著作権制度の根本的なあり方を議論する場として「基本問題小委員会」を新たに設けるなど、4つの小委員会・部会で具体的な審議を進めていく体制とした。2009年度の審議では、著作権の権利制限規定に一般条項を追加するという、いわゆる「日本版フェアユース規定」の導入の是非などが主な論点となりそうだ。

 2009年度の著作権分科会では、基本問題小委員会のほか、(1)著作権関連の個々の規定について具体的な制度設計を考える「法制問題小委員会」(2)著作権にまつわる各種条約など、国際的なルール作りに関する問題を扱う「国際小委員会」(3)著作権にまつわる各種の使用料や補償金の水準について話し合う「使用料部会」――を設置する。

「パッチワークのような部分的な対応ではなく、著作権制度の抜本的な見直しが必要」

 新設する基本問題小委員会では、具体的な制度設計と一線を画し、デジタル機器やブロードバンド接続が広く普及した現状において、著作権という制度そのものをどのように変革するかといった、抜本的な議論を行う。

 その背景について文化庁 著作権課の川瀬真・著作物流通推進室長は、「歴史を見ても、ラジオ放送の登場を受けて著作権の考え方が根本から変わるなど、著作権の制度は柳のように揺れ動いてきた。ここ数年、ブロードバンドのインフラ整備やネットでの動画配信、動画投稿サイトの広がりといった環境変化があったが、著作権制度はパッチワークのように部分的な対応を繰り返すだけだった。2008年度の小委員会でも、複数の委員から『抜本的な議論の場を設けてほしい』という声が挙がっており、著作権制度そのものについて話し合う機運が盛り上がってきた。この時期にそうした議論をする必要性があると考えた」と説明する。

 法制問題小委員会では、日本版フェアユース規定が最大の論点となる。現行の日本の著作権法では、著作権の権利制限を認めるケースについて個別に条文に記載している。この権利制限規定として新たに一般的な条項を追加し、新たな二次利用の手法が出てきたときに法改正を待たず迅速に対応できるようにするのが日本版フェアユース規定の狙いである。2008年11月には、知的財産戦略本部の専門調査会が日本版フェアユース規定の導入を求める提言を発表している。

 一方で、日本版フェアユース規定に対し反対意見や慎重な議論を求める声も、権利者や学識経験者から挙がっている。具体的には、流通業者がフェアユースを乱用し権利者の意図に反する形で著作物を大量に流通させること、権利者の持つ権利の範囲が狭まったり許諾権が行使しづらくなったりすること、日本版フェアユース規定の導入を急ぎすぎ審議が不十分になること、などを懸念する意見が出ている。

 この日の会合では、複数の委員が日本版フェアユース規定の導入に慎重な意見を表明した。石坂敬一委員(日本レコード協会会長)は「日本版フェアユース規定の導入について、拙速な議論がされることを懸念している。著作権法の根幹に関わる問題なので、法制小委だけでなく基本小委でも議論してほしい」、三田誠広委員(日本文藝家協会副理事長)は「Googleが進める図書館の蔵書のデジタル化事業を巡り、米国内の訴訟で和解が成立したが、これに伴い日本でも大変な混乱が起こっている。こうした混乱を起こしてもGoogleが謝罪しないのは、彼らが自分たちの事業をフェアユースだと考えているから。フェアユースを導入するとさまざまな不具合が起こる可能性がある。そのことを踏まえ、慎重な議論をお願いしたい」とした。

 また、大林丈史委員(日本芸能実演家団体協議会専務理事)は「日本版フェアユース規定の導入を、あまり拙速にばたばたやろうとするのはなぜなのか。納得できないまま議論が進んでいる。土台作りの議論をきちんとやって、その上で先へ進む展開の仕方を考えてほしい」、松田政行委員(弁護士)は「日本版フェアユース規定の導入推進論は、インターネットを利用した事業が諸外国より遅れていることを前提としている。しかし三田委員が挙げたGoogleの例のように、フェアユースというにはいくら何でもという事案もある。米国に追随して著作権法を改正するというのは間違いだと思う。導入ありきの印象を与えるような表現は慎重にすべき」などとそれぞれ発言している。

再び宙に浮く、私的録音録画補償金

 2008年までの著作権分科会では、私的録音録画補償金の見直しが重要なテーマの一つであった。文化庁は2008年12月、文化審議会とは別に権利者とメーカー、消費者などの当事者を集めた懇談会を設けて、2009年度はこの懇談会で議論を進め当面の見直しについて合意を形成する意向を示していた。だが現状では、こうした懇談会で話し合いを持つめどが立っていない。

 この背景には、懇談会構想が明らかになって以降、権利者側とメーカー側の意見の相違が明確になってきたことがある。文化庁は2009年2月、補償金の対象機器・媒体にBlu-ray Disc(BD)を追加する著作権法施行令の改正案を公表したが、電子情報技術産業協会(JEITA)がこれに反対し、文化庁が当初目指していた4月1日からの実施が棚上げとなっている。また権利者側は2009年2月の会見で、パソコンや携帯音楽プレーヤーにも補償金を賦課すべきと表明している。

 今回の会合では、大林委員が「2008年6月に文科・経産両大臣がBDに対する補償金の導入を発表している。にもかかわらず、まだ導入されていない。公の場で約束したことが決まらないのはモラルハザードである」と語り、BDへの補償金賦課の迅速な実施を改めて要望した。