公正取引委員会は2009年2月27日、日本音楽著作権協会(JASRAC)が運用している音楽著作物の使用許諾契約の一部について、独占禁止法に違反するとして排除措置命令を行った。テレビ・ラジオなどの放送局と締結している包括許諾契約について、使用料の算定方式に問題があるとしている。JASRACはこれを不服として審判を請求する方針。

 一般に放送局は、JASRACの管理楽曲を番組で使用する場合、JASRACに対し楽曲の使用許諾申請を出し、所定の使用料を支払う必要がある。ただし実際には、放送では膨大な楽曲を使用するため、1曲ごとに許諾申請や支払いをするのは困難である。このため、1回の申請でJASRAC管理楽曲すべてを使用可能になる包括許諾契約をJASRACとの間で結んでいる。この包括許諾契約の場合、放送局は放送事業収入の1.5%を支払うことで、JASRAC管理楽曲を自由に使用できる。

「JASRACのシェアが低下しても、支払額は同じ」

 公取委が問題視しているのは、包括許諾契約の使用料の算定方式。国内にはJASRAC以外にも複数の音楽著作権管理事業者があり、JASRAC以外の管理事業者が管理する楽曲が使用されることもある。しかしJASRACの包括許諾では、使用された全楽曲のうちJASRAC管理楽曲のシェアがどの程度であったかを使用料の算定基準として反映していない。このため、放送局が他事業者の管理楽曲を使おうとすると、JASRACへ支払う使用料は変わらず、他事業者へ支払う使用料が増え、著作権使用料の総額が増加する可能性がある。この結果、放送局は著作権使用料の負担増を嫌気し、他事業者の管理楽曲を使わなくなるため、他事業者が放送分野の音楽著作権管理事業に参入できない状態にある――と公取委は判断。「JASRACは、他事業者の事業活動を排除することにより、放送向け管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限している」(公取委の発表資料)としている。

 公取委はJASRACに対し、包括許諾契約における使用料の算定方式を変更するよう命令。具体的な改善策は明示していないが、放送された全楽曲に占めるJASRAC管理楽曲のシェアを踏まえて使用料を変更するなどの方法を念頭に置いているとみられる。

 JASRACはこの排除命令に対し、「包括許諾契約は30年以上前から、放送局と話し合い合意の上で導入している。欧米でも古くから採用され定着している。現段階ではベストな方法であり世界標準である」(JASRACの加藤衛理事長)と主張。その上で、「3月2日に公取委から詳しい説明を受ける予定だが、現段階では排除命令に対し不承知であり、審判請求をする方針」(加藤氏)としている。

 使用料の算定方式については、「公取委は他事業者の参入が認められた2001年以降、JASRAC管理楽曲が他事業者の管理楽曲へと移管され、JASRAC管理楽曲が減っているとみているようだ。しかし実際には、JASRAC管理楽曲は減っておらず、むしろ年間4~5万曲ずつ増えている。他事業者の管理楽曲の使用実績が純粋に上積みされたものと考えている」(加藤氏)と語り、シェアに基づいて使用料を割り引くのは正しくないとの見解を示した。また、JASRACと他事業者の管理楽曲について使用実績のシェアを算出することについても、「JASRACがシェアを算出するとなると、JASRACが競合する他事業者のビジネス情報を入手することになる」(JASRACの菅原瑞夫常務理事)「シェア算出は音楽著作権の管理とは無関係であり、JASRACの事業として行うことはできない」(加藤氏)と否定した。

 「JASRACが他事業者の事業活動を排除し競争を制限している」という公取委の見解については、「JASRACが放送局に圧力を掛けたといった事実は一切なく、そのことはJASRACと公取委の話し合いで公取委自身も表明していた。にもかかわらず競争阻害と言われるのは心外。排除命令に至った背景、本当にJASRACが競争を阻害したのかについて、審判や裁判で徹底的に争う」(加藤氏)と強く反発。その上で、「音楽は嗜好(しこう)性が強いものであり、視聴者が聴きたいものを放送で使わなかったり、聴きたくないものを無理やり聴かせたりすれば、消費者は不満に思うはず。音楽著作権管理団体の競争力は、各団体が決めるものではなく世間が決めるもの。管理楽曲の数が多ければ競争力があるというものでもない」(加藤氏)と反論した。

JASRACは全曲報告による抜本解決を提示、ただし全面導入にはまだ時間

 JASRACは抜本的な解決策として、包括許諾契約を締結している各放送局に対し、使用した楽曲をすべて報告してもらう、いわゆる全曲報告方式を挙げる。ただし全曲報告は放送局にとって負担が大きく、現段階で全曲報告を全面導入するのは困難としている。

 現在のところ、テレビではNHKや民放キー局、そして地方局のうちトライアルも含め約20局で全曲報告を行っている。それ以外の地方局では、スタジオ演奏する場合のみ全曲報告で、CD再生の楽曲は13週に1回、1週間のサンプリング調査を行い、その結果を元に音楽使用料を配分している。ラジオの場合、FMは既に全曲報告となっている。AMはスタジオ演奏のみ全曲報告で、CD再生の楽曲はサンプリング方式という。「テレビ番組のうち全曲報告をしているのは、放送時間ベースで6~7割の番組」(菅原氏)としている。

 JASRACはこうした取り組みを挙げた上で、「全曲報告は、公取委の立ち入り検査(2008年4月)よりはるか前の2003年から具体的な協議を行っている。関係者が自発的に努力を続けているさなかに、具体的方策も時間的猶予も明確にされないまま排除命令が出された」(JASRACの発表資料)と批判している。

 なお、包括許諾契約そのものの適法性については、「包括許諾契約自体がいけないわけではない、と公取委から説明を受けている」(菅原氏)といい、問題ないとの見解を示した。また、JASRACが「YouTube」や「ニコニコ動画」といった動画投稿サイトとの間で締結している包括許諾契約については、「今回の排除命令の対象は放送局との契約のみであり、動画投稿サイトとの契約は問題ない。また、動画投稿サイトとの契約では、当初から全曲報告方式のみとしており、技術的な課題は残っているものの実際に全曲報告してもらっている」として、影響ないとしている。