グーグル日本法人は2008年11月25日、動画投稿サイト「YouTube」に関する事業説明会を開催した。この中で米グーグル コンテンツ担当副社長のデイビッド・ユン氏は、権利者に無断で投稿された動画の検出・処理システム「コンテンツID」が稼働を始め、懸案となっていた著作権問題に対し順調に成果を上げていると説明。「これまで守りの姿勢だったYouTubeが、著作権問題の解決を契機として攻めにシフトし始めている」と強調した。

 コンテンツIDは、YouTubeに投稿される動画の内容を自動チェックし、著作権上の問題があるコンテンツについて任意の処理を施すためのシステム。コンテンツホルダーからの協力を得て、各社が著作権を持つ映画やテレビ番組などの原本の映像をあらかじめアップロードしておく。その後、ユーザーがYouTubeに動画を投稿した際、これらの原本と投稿された動画を照合。一致する映像が含まれている場合、コンテンツホルダーにその旨を報告する。

 コンテンツホルダーはその投稿動画を確認し、(1)ブロック(削除する)、(2)トラック(そのまま残す)、(3)マネタイズ(動画に広告を付け、広告収入をコンテンツホルダーに還元する)――の3種類から処理方法を選ぶ。

 また、コンテンツホルダーは、投稿動画の統計情報サービス「YouTubeインサイト」を利用することで、(1)どんな時期・時間帯によく視聴されているか、(2)どの国からのアクセスが多いか、(3)どんな属性のユーザーが視聴しているか、(4)投稿動画のうちどの部分が多く視聴されているか――などを、簡単にチェックできるという。

 コンテンツIDについてユン氏は「既に十分な形で動くようになっており、20秒程度と短いコンテンツでも同一性のチェックが可能だ。また、これまでコンテンツホルダーにとっては、投稿動画からは十分な著作権料収入を得られないという課題があったが、コンテンツIDによってYouTubeをビジネスとして活用できるようになった」と語る。ユン氏によると、コンテンツIDを利用するコンテンツホルダーは約300社。3種類の処理方法については、「90%以上のケースでマネタイズが選ばれている」とした。

「コンテンツIDで、公認コンテンツの再生回数が62倍に」――角川デジックス

 コンテンツIDの開発に際しては、角川デジックスがグーグルに技術協力をしている。同社は、角川グループが著作権を持つコンテンツを含んだ投稿動画について、10種類のケースを想定し、同社が認証済みであることを示す「角川バッジ」や広告を付けたり、一部コンテンツではキャンペーンとしてユーザーに金券を送付したりと、対応方法を細かく分けているという。

 同社は2008年6月15日からこれらの運用を行っているが、「こうした取り組みの結果、YouTubeで角川公認のコンテンツが再生される回数は、運用開始前の62倍に増えた」(同社 代表取締役社長の福田正氏)と語り、自社コンテンツの幅広い認知や広告収入の確保といった点で大きなメリットがあると語った。ユン氏は「コンテンツIDはさらなる改良を続けていく」としているが、福田氏は「管理画面のインタフェースや照合可能な投稿動画の最短秒数の短縮などで改良の余地はあるが、基本的な使い勝手としては十分な領域に達している」と太鼓判を押した。

 このほか同社では、投稿動画と連動したタイアップ広告を作成したり、製品の公式サイトとともにYouTubeの関連動画も検索結果の上位に出るようSEO対策を施したりといった取り組みをしている。例えば、タカラトミー製の玩具「フラワーロック2.0」について角川グループが宣伝協力した際、同製品を題材にYouTubeへ動画を投稿しているユーザーに連絡し、タイアップ広告の作成に向けた打診をしているという。

 また、フラワーロック2.0の宣伝の一環として、YouTubeで投稿動画を再生する際、映像にオーバーレイする形で広告を表示するシステム「InVideo Ad」を使用した。「InVideo Adの掲載翌日から、フラワーロック2.0関連の動画へのアクセス数が急増した」(福田氏)といい、大きな効果があるとの見解を示した。InVideo Adについては、ユン氏も「標準的なバナー広告と比べ、8~10倍のクリックレートを実現している」と語っている。

「コンテンツの自動翻訳で、日本のコンテンツの世界展開を手助けしたい」

 コンテンツの著作権問題にメドが付いたことで、YouTubeではさらなる機能強化により事業拡張を図る考え。ユン氏は具体的な施策として、(1)長時間の映画やテレビ番組などを丸ごと視聴可能にする「Theater View」、(2)投稿動画の試聴画面に関連する音楽や映像の購入ボタンを配置する「Click to buy」、(3)投稿動画に付いている字幕を自動的に他言語に翻訳する機能――などを挙げている。

 ユン氏は、「世界の人々は、実は日本ブランドが大好きだ。だが、これまでは言語や販売経路の問題などで享受できずにいた。コンテンツの自動翻訳機能などで、日本のコンテンツが世界に発信できる手助けをしたい」と抱負を語った。