米インテルがサンフランシスコで開催したコンピューター技術者向け会議「Intel Developer Forum」(IDF)では、低消費電力ながらインターネット活用や文書作成などのアプリケーション活用には十分な性能を持つ「Atomプロセッサー」についての発表、解説が多かった。
Atomプロセッサーは、低消費電力ながらSSE3などCore 2 Duoと同等の命令セットを実現しているのも特徴の一つだ。そのため、ほとんどのWindowsアプリケーションソフトは、Atomプロセッサーを搭載したモバイルインターネットデバイス上でも動かすことができる。インテルはさらに、Atomプロセッサー搭載ハードウエア向けのLinuxベースのオープンソースOS「Moblin」(モブリン)の環境整備を足がかりにして、これまでパソコンで体験できたサービスを、高機能携帯電話や家電製品にも拡げようとしている。
Moblinは、"MOBile & internet LINux project"から採った名称で、IA(インテルアーキテクチャー)ベースのモバイルシステムで動作するオープンソースのアプリケーションやモジュールの認定、開発推進を図るコミュニティーだ。
インテルはMoblinの活動を通じて、パソコン以外のIA採用デバイスにおけるアプリケーションの充実を図ろうとしている。既にMoblinには1000社を超える開発ベンダーが参加し、Linux環境におけるインターネットアプリケーションの開発を進めている。インテルがその一例として公開したMoblin認証アプリケーションは、Atomプロセッサーの高い処理能力を生かしたものがほとんど。例えば、インターネットを介して複数のユーザーが3DナビゲーションやGoogleマップの情報を共有し、会食の場所や待ち合わせ時間をインスタントメッセンジャーを使いながら打ち合わせることができるという、Windowsノートパソコンのインターネット体験と同じ環境を実現するものまである。
さらにインテルは、米アドビシステムズや米マイクロソフトと共に、現在マルチメディアインターネットコンテンツの標準プラットフォームとして普及している「Adobe Flash」や「Microsoft Silverlight」をLinuxなどの非Windows環境でも動作するように準備を進めている。Atomプラットフォームではパソコン環境のようにOSを気にすることなく、誰もが数多くのインターネットコンテンツを楽しめる環境を作り上げようと言うわけだ。
インテルが、非パソコン分野におけるハードウエアの開発よりも、ソフトウエア環境の整備を優先するのには理由がある。コンピューターの歴史において、同社のx86 CPUが圧倒的な優位性を持つようになった最大の要因は、競合他社の製品よりもアプリケーションが充実していたからだということを、インテルは重視しているからだ。
モバイルインターネットデバイスに限らず、今後本格的に参入を予定している高機能携帯電話や家電製品において成功を収めるためには、利用可能なソフトウエア製品の充実と、既にパソコンで使われているアプリケーションとのシームレスな連携がカギとなる。
インテルで家電向け製品ビジネスを統括するエリック・キム上級副社長兼ジェネラルマネージャー(Eric B. Kim, Senior Vice President and General Manager, Digital Home Group)は、「Atomプロセッサーが構築するエコシステムが、家電市場におけるインテルの成功を支えることになる。しかし、それはこれまでITベンダーが何度もトライしてきた“WINTEL”(ウィンドウズ=Windowsとインテル=Intelの組み合わせ)型ではない」とする。家電製品のベンダーが慣れ親しんだLinuxベースの独自環境に、豊富なアプリケーションを提供することこそが、家電市場にIAプラットフォームを浸透させるきっかけになると見ているのだ。