「アスペクト比が現行の16:10ではなく16:9の液晶パネルをパソコンメーカーに提案する動きが、複数の液晶パネルメーカーからここ数カ月で一挙に出てきている。既に16:9のパネルを搭載した製品も出始めており、16:10から16:9への移行が急激に進む可能性がある」――こう語るのは、ディスプレイサーチ IT&FPD市場担当 ディレクターの氷室英利氏。同社が2008年7月31日に開催したセミナーで語った。

 16:9の液晶パネルを採用した日本市場向け製品としては、例えば日本エイサーのノートパソコン「Aspire 6920」「同 8620」や、ソニーのノートパソコン「VAIO type F」「同 type Z」などがある。例えばAspire 6920の液晶ディスプレイは1920×1080ドット。現在主流の16:10の液晶パネルの場合、横が1920ドットであれば縦は1200ドットとなるのが通例である。

 氷室氏によると、液晶パネルメーカーが16:9への移行を進める理由は大きく2つあるという。1つは、液晶パネルの製造効率の向上である。ノートパソコン向け液晶パネルの製造で多く使われている、第5世代の液晶パネル製造ラインの場合、1100×1250mmないし1100×1300mmのガラス板(マザーガラス基板)を作る。このマザーガラス基板を切り分けていくと、16:10の15.4型液晶パネルを15枚製造できるものの断片が多い。一方、16:9で15.6型の液晶パネルを製造する場合、同じマザーガラス基板から18枚の液晶パネルを効率良く切り出せる。

 もう1つの理由が、在庫調整のしやすさである。これまでは、薄型テレビ向けの液晶パネルが16:9、パソコン向けが16:10と分かれており、パソコン向け液晶パネルが余ったからといって薄型テレビに転用はできなかった。パソコン向け液晶パネルも16:9となれば、パソコン向けとして製造し余剰となった液晶パネルを、パネル品質にこだわらない低価格の薄型テレビ向けとして販売できるようになり、在庫リスクを低減できる。

 パソコン用液晶ディスプレイにおける16:9の液晶パネルの採用比率は、2008年時点では9%の見込み。これが2009年には32%、2010年には47%となり、2年後にはほぼ半数の液晶ディスプレイが16:9になると同社は分析する。ノートパソコン内蔵用の液晶ディスプレイでも、2008年は4%の見込みだが、2009年に27%、2010年に49%まで急増するとみている。

 ただし、現時点では16:9の液晶パネルに課題もあると氷室氏は指摘する。最大の課題は、パネル寸法が液晶パネルメーカーごとにばらばらである点。例えば、スタンダードノート向け品種では、15.6型、16型、16.4型が混在している。「これまでの16:10の液晶パネルでは、同じ寸法の液晶パネルを複数の液晶パネルメーカーから調達するのが容易だったが、パネル寸法が統一されないと、パソコンメーカーにとっては調達に苦慮する場面が増えるだろう」(氷室氏)。複数メーカー間でのパネル寸法の統一は、2008年末から2009年にかけて徐々に進むだろうと氷室氏は予測している。

 この日のセミナーでは、台湾アスーステック・コンピューター(ASUSTeK、ASUS)の最高執行責任者(COO)を務めるトニー・チェン氏も登壇。「将来のEee PCでは、10.1型で1024×576ドットの液晶パネルを搭載することになるだろう。16:9への移行の流れにも沿うし、液晶パネルの横幅が広がればそれに合わせてキーボードの幅も広げられる」と語り、16:9の液晶パネルへの移行をパソコンメーカーの立場から裏付けた。